1、守護神

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 婆ちゃんはいつのまにか、爺ちゃんと二人でテーブルに着いている。中皿に寿司飯と具材をのせて混ぜ、海苔で手巻き寿司にしてる。父ちゃんがいってた、うちの猿田比古神社の伝説の祭神・猿田比古神さんと鈿女神さんとは、おおちがいだぞ。  うちの先祖は、出雲からこの地に舞い降り、社を築いた。うちの先祖は我が中沢家の開祖、建御名方刃美神(たてみなかたとみのかみ)さんだ。なのに、なんで道祖神が守護神なんだ? 『ごちゃごちゃ考えるな。ホレ、サスケも早く食え』  婆ちゃん、椅子に座れ、と目配せしてる。 『なあ、サスケ。男も女もここださ』  婆ちゃんが自分の胸をポンと叩いた。 『思いやりがねえのはダメだな。  ヤツはダメださ。サッチーには合わねえべ』  婆ちゃん、寿司飯を喉につまらせた。胸をトントン叩いてる。 『婆ちゃんと呼ぶな。ジニーだべ』  ゲホゲホ咳き込みながら、松茸のお吸い物、といってる。なんちゅう婆ちゃんジニーだ。こんな時でも松茸のお吸い物だ。高級志向をいうくせに、し○○ら服だ。 『し○○ら服をバカにすんじゃねえぞ。  すっげえ着心地いいんだ。種類もサイズも、いろんなのがあんだぞ!』  なにそれ?統一性がないってことじゃないの。そう思いながら、インスタントの松茸のお吸い物をつくって、テーブルに置いた。爺ちゃんは静かだ。 『サルタンは、サッチーをどうするか、思案の最中だ。  最中(もなか)あったな。あとで食うベ・・・』  婆ちゃん連想ゲームしてる。 『ホレ、サスケの先祖は、中沢の開祖、建御名方刃美命だベ。  建御名方刃美命の祖父フツシが、サルタンの友人なんよ。  そいで、そのフツシは私の弟だベ  だから、私ら、サスケと中沢家を守ってんだな』  婆ちゃん、食って飲んで、話してる。サルタン爺ちゃんは静かに食ってる。  婆ちゃんの話は、原大和朝廷以前の話だ。これは古代秘話だぞ! 『実はな、私の弟のフツシの許嫁(いいなずけ)が、豪族に略奪されたんさ。  そいで、私の弟のフツシとサルタンと許嫁の弟で、豪族を討って、許嫁を救ったんさ。  馬に乗って日よけと砂塵よけの白い衣まとって、サルタン、格好よかったな・・・』  ジニー婆ちゃん、遠くを見るように天井の隅を見つめてる。サルタン爺ちゃんが目の前にいるのに、時が過ぎればこんなもんか。 『バカこけ!思いだしてるんは、サルタンの凱旋シーンだべ。  サルタンのじゃますんな。サッチーを救う方法を考えてんだ』 『それからどうしたん?』  オレは、豪族を討ったあとがどうなったか気になった。ジニー婆ちゃんがオレを見て笑った。 『みんなで出雲の国を作りましたとさ。おしまい』  お吸い物を飲んでいる。 『なんでおしまいなの?古代歴史秘話だよ!』  オレはちらし寿司を食うのも忘れ、そういった。 『近頃の世間はなあ、私の話なんか信用しねえさ。  裏付けがねえべ。証拠は皇室の古文書の中さ。  宮内庁は、絶対公表しねえぞ。  公表したら、古事記と日本書紀が、完全創作だとバレちまうべ。  皇族の歴史が変わるべさ。  今は悪霊からサッチーを救おう』  婆ちゃんの意識から、鳥のように古代歴史秘話が飛び去るのが見えた。せっかく歴史秘話が聞けると思ったのに残念だ!  もう、婆ちゃんはちらしの巻き寿司を作るのに心がむいてる。婆ちゃんは切り換えが早い。こんなんで、よく、爺ちゃんと気が合うな。そう思うと、婆ちゃんから何かが出て、爺ちゃんを包んでいるのが、オレの心に見えた。  ああ、気ってこれか。婆ちゃんは爺ちゃんを守ってるんだ・・・。
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