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5、巫女
春休みになった。
うちの猿田比古神社の祭神は道祖神・猿田比古神さんと、芸術など調和の神・鈿女神さん、お清めなど水の神・罔象女神さん、夜の世界を守護する神・月読神さんだ。鈿女神さんはお祓いの神で武神でもある。
年末年始につづき、春は入試、卒業、入学式、結婚式、引っ越しなど、猫の手も借りたいくらい、うちの猿田比古神社は忙しい。
今年は巫女が三人になって、いくらか楽だろうと思ったが、妹の耀子は幸と奈都に巫女の作法と振舞を教えるのに手間取り、祭事に支障が出ている。
交通安全祈願祭のその日。
控えの間で着換えるオレに、襖を隔てた隣室から、妹の耀子の説明が聞える。三人は着換え中だ。
「すぐに慣れるよ。
お祓いや祈祷は、父ちゃんに付きそって、指示どうりに動けばいいからね。
いろいろ気づいても、詮索しないんだよ」
「どういうこと?」
奈都が問い返した。
「いろんなことがわかるけど気にしないで、忘れてね。
そうでないと、生霊をしょいこんで、その人の苦労もしょいこむよ。
それに、個人情報を知る立場にある私たちが情報をもらすのは、守秘義務違反だから話しちゃだめだよ」
気楽な耀子の言葉に、幸と奈都の顔色が変った。
「生霊に取り憑かれるか?」
幸と奈都はすでに幽霊を見たかのようにひるんでいる。そういう問題じゃない。個人の情報を話すなといってるんだぞ!
「そうだよ。しょいこんだら、父ちゃんにお祓いしてもらえばいいよ。
守秘義務違反しないでね。
今日は父ちゃんの後についていってね」
またまた耀子は気楽にいった。
「わかったよ。話はここだけにするべさ。
取り憑かれたらお祓いしてもらお・・・」
幸が神妙になっている。
お祓いや祈祷の祝詞は、心に宿した負のエネルギーを浄化し、森羅万象から聖なるエネルギーを注ぎ込む祈りだ。負のエネルギーが拡散するとき、清く高い感性の心を持つ者は、この負のエネルギーを感知して影響されやすい。
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