1、守護神

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 ご飯は炊いてある。ちらし寿司の素はある。具材は、母ちゃんがみんな用意して出かけたのを、爺ちゃん、知ってて、ちらし寿司を話したな。タマゴを焼いて錦糸玉子作るぞ。  オレはタマゴ三個を茶碗に溶いて、薄焼きタマゴを焼き、千切りにした。  爺ちゃんがオレの背後から調理を見ている。  ご飯をボウルにいれて、散らし寿司の素を入れかきまぜる。サクサクサクとしゃもじで切るように。婆ちゃん、こんなことしないんだろうな。 『あんまり、婆ちゃんと呼ぶな。あのスタイルだ。  婆ちゃんと呼ぶと怒るぞ』 『じゃあ、なんて呼べばいいん?ズーメか?アハハッ』 『和名(わめい)は気にくわん、そうジュヌビィエーヴといっとった』 「まああの顔であのスタイルだから、それもありだね。  だけど長すぎるよ。ジニーでいいよ」  婆ちゃんはスタイルがいい。脚が長い。金髪に近い薄茶の髪をしてる。瞳はグリーンだ。アハハッ、魔法使いジニーか。この名前、なんか映画にあった気がする。妖怪ジニーか?ちがうな。美魔女ジニーだな。  爺ちゃんは道祖神(どうそしん)猿田比古神(さるたひこのかみ)さんだ。婆ちゃんは爺ちゃんの奥方、鈿女神(うずめのかみ)さんだ。 『バカいってんじゃない!  ダンゴをこねてんじゃないよ。  もっと、切るように混ぜんかい!  ご飯が潰れるだろう!』  頭上から声が降ってきた。現れたな、妖怪ジニー! 『あたレゃアンタの守護神だろう!守護霊より格上だ!  ジニー姐さんとお呼び!ジニーの姐御でもいいさ!』  なんだかんだいって、婆ちゃん、寿司飯つまんでる。 『ジニー姉さんと呼ぶよ。婆ちゃん』 『アホか!姉さんの字がちがうべさ。  ジニーでいいよ!  もっとよく混ぜんかい!味がまばらだベ!』  婆ちゃん、ご飯を混ぜる端から食ってる。ちらし寿司になる前にご飯が無くなっちゃうぞ。 『婆ちゃん、食べんじゃないよ!  爺ちゃん、食べるなっていってよ!』 『私のサルタンを爺ちゃんと呼ぶな!  本名はサルタンだ。サタンじゃねえぞ。  なのに蝦夷(えみし)のヤツら、猿田比古(さるたひこ)なんぞ呼びおって。  私は鈿女(うずめ)と呼ばれたんだぞ。  許せん!』  婆ちゃん憤慨してる。だけど、その割りに興奮してない。口先ばっかだ。笑いながら寿司飯食ってる。オレは婆ちゃんにいった。 『婆ちゃん、話すか、食べるか、どっちかにすれば』   婆ちゃんは美人だ。爺ちゃんより背は低い。婆ちゃんの身長は百七十センチメートルといってたな。すらりと伸びた脚を、スキニーなジーンズに包んでる。白いハイネックのカシミアセーターがくびれた腰と形のいい胸にフィットしてる。今日はカジュアルな服装だ。薄茶のロングヘアーと緑の瞳、彫りの深い顔にマッチしてる。これなら、三十代に見えるぞ・・・。うん?昨日は、巫女さん姿だったぞ!もしかして・・・。 『あたりだべ。し○○ら服から、借りたんさ。明日、返すさ』  うわっ!うわっ! 『心配ねえべ。こうして腕まくりしてる。  汚れたら、ミズハに洗ってもらう』 「なんで、罔象女神(みずはのめのかみ)さんにふるの?  着てるんは婆ちゃんだろう?」  罔象女神さんは吉野の水の女神さんだ!そして、うちの猿田比古神社の祭神でもある。  オレは寿司飯を食ってる婆ちゃんに呆れた。
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