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家路を急ぐ車のライトが 夕刻を告げ
西の空に 一番星が顔を出す
久しぶりの待ち合わせに 心が躍り
地面を踏んでいても 空中を歩いているようだった
約束まで まだずいぶんと時間があるというのに
もう この場所に立っている
風がそよぐたびに
前髪を整え 頬に落ちた髪を耳にかける
ポケットからリップクリームを出して 唇に重ねると
チェリーの甘酸っぱい香りが 鼻先を撫でていった
彼は ほんのりと赤く色づいた唇が
さくらんぼの薄皮のようだと言い
顔を寄せるたびに この香りが好きだと言った
匂いを嗅ぐだけで
その状況が幾度となく思い出され
反射的に 胸の奥がキュンとしてしまう
もうすぐ会える もうすぐ会える
時間を確認しようと 携帯を覗いたとき
後ろから 足音が近づいてきた
絶対 彼に違いない
ああ どうしよう
心臓のドキドキが 口から洩れてくる
「遅くなって ごめん!。」
「ぜんっぜん 大丈夫。」
嬉しさで緩んだ 私の唇を見て彼が微笑んだ
一瞬で耳が熱くなり 熱が頬へと伝わる
私は 唇を固くつむって こらえきれない嬉しさを
リップを握りしめてごまかした
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