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「はい。この真ん中のところは精霊界や天界にいける門があると言われている場所ですね。こっちのは魔界の門がある場所。どちらも、未確認ですが。」
私は魔界の門がある場所が気になっていた。
「それでは、人間の変化について簡単にお教えします。」
ナルムさんの指先は大地の神殿を指している。
「神殿の近くで生活していた人達から生まれてくる子供の、髪の色が変化している現象が起こりました。」
「精霊の加護の現れと知った人間は、色の濃い子供を生むため神殿の近くに住むようになり、色を受け継ぐ民としてそれぞれの文化を形成していったのです。」
私は自分の黒髪を触りながら釈然としない溜め息を吐いていた。
「魔力を受け取った民は精霊の性格まで受け取ってしまい、結果火の民は攻撃的に、水の民は保守的に、風の民は奔放的に、大地の民は包容的な性格になってしまったのです。」
私はさっきのティオの言葉を思い出した。
溜め息のような声で私は呟いていた。
「髪の色で全て決まってしまうのって、淋しいですね。」
私は膝の上にいるモカを撫でていた。
「そうね。あなたの言う通りです。髪の色で人を判断し、そして競い争う。…これもこの世界の常識なんです。」
ナムルさんがゆっくりと優しく私を見ている。
「精霊の加護を求めた民達は、黒髪で生まれてきた子供をどう扱ったと思う?」
「え…」
私は、私なりのこの世界の考え方と、私の住んでいた世界の考え方と照らし合わしてみた。
「落ちこぼれとか、落胆な気持ちで子供を見るんだろうな…」
「はい、そうです。悲しい事に生まれた子供を捨てたり、殺したりする親まで出ました。」
やり場のない悲しみと怒りが涙となって溢れるのが判っていたけど、じっとナムルさんを見つめた。
ナムルさんは変わらず暖かい笑顔で私を見ていた。
(おばあちゃんみたい…)
「もう、今はそんな事する人はいないのよ。あなたと同じ心を持った人たちが集まって子供達を保護したり、引き取ったりしてね。そして黒い髪の人たちにもすばらしい加護があることを伝え広めたのです。」
私は滲んだ涙を拭き取った。
「その加護ってどんなのなんですか?」
テーブルを挟んで立っているナルムさんは変わらずに私を見ている。
「人と人との心を繋ぐ力、自由な心と無限の想像力で物を創る才能。」
「それって…」
私の思いを受け取ってナムルさんが会話を続けた。
「はい。本来、人として当たり前の力。助け合い、工夫と努力で繁栄してきた人間の力です。」
私はなんだか誇らしげな気分で自分の髪を意識した。
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