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「モカ様が気に入る場所が見つかるといいですね。」
ナムルさんがカードを集めて地図をたたみ始めている。
「歴史とこの世界の話はこれくらいにして、ティオ様の授業を少し見学してみますか。」
「はい。」
私は椅子から立ち上がり、椅子を元の場所に戻した。
大きな木の扉からまた廊下に出た私達はナムルさんの横に並んで歩いていった。モカは私の頭の上にいる。
私は少し前を歩くナムルさんを見つめた。
ゆったりとした空気を漂わせている。そして人を惹きつけ、正しい道を教えてくれそうな、そんなふうに思えた。
「ナムルさんはここの先生をしているんですか?」
歩くペースを少し落として私のほうに顔を向けるナムルさん。
「はい。この銀礼の神殿で神官長という役職と、ティオ様が勉学している月修院の教師をしてます。」
(学校か~。みんな元気かな~)
ナムルさんが足を止めた場所はこの建物の一番端にあたる部屋の扉の前だった。さっきと同じ大きな木の扉があり中からは何も聞こえなかった。
重そうなその扉をナムルさんは手を触れる動作一つで、扉は鈍い音を放ちながら奥へと開いていった。
と同時に、中から楽しそうな女性達の声が聞こえてた。
私とモカはナムルさんに促されるまま、声のする部屋へと入っていく。
机と椅子が並ぶ教室を思い描いていた私は部屋の中を見てびっくりした。大きな円卓と椅子が部屋に入ったすぐのところにあり真ん中にはさっきみた水晶が置いてある。その奥には教室2つ分くらいありそうな空間だけがあった。開放された窓から光と風が入ってきている。
ナムルさんが円卓の横を抜けて10数人の白いワンピースの服を着ている生徒達の方へ歩いていったので私も付いて行った。
ナムルさんに気付いた先生らしき女性が軽く会釈をして、生徒達の言動を制した。
静かになった部屋の生徒達の目線が私に向けられているのが判った。
10歳前後の子供から20歳くらいにみえる人たち、それぞれが同じ服を着ている。
(うわ! 転校生ってこんな感じで見られているんだろうな…)
などと思っているとナムルさんが私を呼んでいるのが聞こえた。
「なおさん。ここが銀の魔術を教える月修院の教室です。巫女の修行と教育をしているのです。」
私はナムルさんに招かれるまま生徒達の前に行き頭を下げて挨拶をした。
「皆さん。ちょっと授業の見学にきた方を紹介しますね。」
私は向けられる生徒の視線の中から笑っているティオを見つけてちょっと安心していた。
「彼女は、なおさん。ティオ様の客人で、今日この街に来てくださったのです。今までお祖母さんと隔離された森の中で暮らしてきたので世間のことを殆ど知らずに育ってきました。だから少しでも力になれるかと色々な事を見て貰っています。みなさんも力になってあげて下さいね。」
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