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ルミナさんの目からすこし涙が溢れていた。
(やっぱり、母親としての想いが…)
私もその赤ん坊の事考えると込み上げるものがあった。
《だけど父親はそれでも赤ん坊を助けて欲しいと、待っている妻の願いも同じだと頭を下げてきてな、わしはその赤ん坊を助けることにしたのじゃよ。》
ナセラおじ様は首をすこし持ち上げて洞窟を見回した。
《ここの岩は魔力を蓄える性質があるって話したじゃろう。わしはこの岩を凝縮・精製を施して、赤ん坊の体内に癒合させたのだよ。大人になって魔力の制御ができるまでの受け皿としてな。》
ナセラおじ様はそういって話を止めた。
洞窟に静けさが戻ってきた。
「…もしかして、その赤ちゃんがお祖母ちゃん?」
私の問いにナセラおじ様は嬉しそうに答えた。
《そうそう最後に、父親の願いでわしが名前を付けたのじゃよ。わしらの言葉で輝きって意味のシェラとな。》
私はまさかお祖母ちゃんの出生の、それも凄い話を聞けるなんて思いもよらなくてびっくりしていた。
「ナセラおじ様がお祖母ちゃんの名付け親で命の恩人だったなんて…ありがとうございます。」
伝えきらない想いを、私は目の前の大きな竜に頭を下げるだけだった。
《なお。この話はここだけの話として、今後はシェラの事を人に聞いたり話したりしないで欲しいのだよ。彼女をよく思わない人もいるからね。なおがシェラの孫だと知って危害を及ぼす可能性もあるしの。》
ナセラおじ様は心配そうな声で私に話しかけていた。
(お祖母ちゃん…この世界嫌だったのかな…)
私はお祖母ちゃんがこの世界を出た理由をなんとなく感じた。
「なおさん。そろそろ時間ですし、戻りましょうか。」
「あっ、そか。もっとお話したかったけど。」
ナセラおじ様に私は別れの挨拶をしてルミナさんの差し伸べた手を掴んだ。
《なお。これを持って行きなさい。》
目の前に真珠のような白銀の玉が淡い光を放ちながら現れた。私は残っていた手を差し伸べてその玉を掴んだ。
「わっ。」
モカが腕から落ちてびっくりしていた。
「あっ、モカごめん。」
モカは不機嫌な素振りで飛び上がり私の頭の上にちょんと座る。
頭の上のモカに玉を握ったままの手で撫でて誤った。
戻した手の中の玉を私はナセラおじ様に差し出すように見せた。
「これって?」
「なおの力になりたいと思う、わしの願いじゃ。闇から身を守る服が入っているから危なくなったら使うんじゃよ。使い方はルミナに聞けばいいからな。また遊びにおいで。」
私は大きく手を振った。
青白く光る洞窟に横たわる大きな竜に別れを告げた。
「また来ます。」
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