月乃宮 なお

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 私は言われた通りに、蜘蛛から離れて家の方へと後ずさりした。  黒い霧が蜘蛛の中へと流れていくのが見える。そして、ぎしぎしと音を立てて蜘蛛が立ち上がった。  対峙する蜘蛛とおじさん。だけど突然おじさんが倒れた。 (えっ? どうしたの?) 「おじさん!」  倒れたおじさんは意識はあるようで私の行動を制止するように手を伸ばす。 「来るな! その子を連れて家に入りなさい。結界が守ってくれるから」  何も出来ないことが判っていた。どうする事も出来ない無力な自分に。  私は悔し涙を流していた。 「ナオちゃん、こっちよ。」  おばさんが入り口で待っている家に向かって、私は走り始めた。 「逃がすか。」  さっきの蜘蛛からの声が私の頭に響く。そして体に重みと痛みを感じ膝をついて倒れてしまう。 (重い…なにこれ? 動けない。) 「モカ。大丈夫?」  腕の中で潰されていないかと、モカを確認した。 「誰! 蜘蛛を操ってこんなことして。隠れてないで出て来きないさい!」  押さえつけられながら少し動く顔を上げて怒鳴った。 「ふふっ。はい、判りました。って素直に出るとおもっているのか。死にたくなければそいつをよこせ。」 (なにこいつ…私の真似して、むかつく~) 「力の無いものが無駄な事をしてなんになる。使われる立場をわきまえろ! そいつもお前もな。」  悔しさが心を押しつぶしていた。 (私はまだ…。まだなにも……)   あふれる涙を否定するかのように激しく叫んだ。 「うるさいー!」  空へと届く大きな声で私は叫んだ。    突然、上空から光の玉みたいなのが落ちてきた。     光は蜘蛛の後ろにある木に当たり、小さな爆音が聞こえて木は炎に包まれる。  私は重みが無くなって体が軽くなるを感じた。 (なに? 助かったの?)  私は腕の中にあるモカを確認する。気絶してるようだった。  おじさんも私と同じように立ち上がって、こっちを見ている。 (よかった。)  おじさんに駆け寄ろうとした瞬間、私の後ろから大きな音とともに強い風が襲ってくる。  振り向くと恐竜に羽が生えたような生き物が空から降りてくる。力強い羽ばたきがさっきの音と風の正体だった。 (ドラゴン?)  蜘蛛と大差ない大きさを見せるその竜をよく見ると人が乗っていた。全身赤色の鎧をまとっている。 (あの人が助けてくれたんだ。)  竜が地面に着いたと同時にその人は竜の背から飛び降りた。そしてそのまま流れる動きで私の方に歩いてくる。 「あっ、ありがとうございました。」  私は竜の騎士に軽く頭を下げてお礼を言った。
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