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目が覚めると隣に知らない女がいた。
「おはよう、○○君」
「誰ですかどうやって入ったんですか警察呼びます」
「ちょちょ、待って待って!」
待てない。不法侵入罪だ。なんで僕はこんなに冷静なんだ。
僕が寝ているベッドの隣であたふたとしている女は、長い黒髪がきれいな若い女だった。
若いとはいっても僕よりは年上だろう。少し無邪気そうな顔をしているが、大人っぽい艶やかさも節々にあった。
「警察は……良くないかなぁ?」
なにが「良くないかなぁ?」だ。ちょっと美人だからってこんな狼藉が許されると思って――
「ね? お願いっ!」
「三分間猶予をやろう」
小首をかしげるしぐさがとてもかわいかった。
「……目的はなんですか。というか鍵掛かってましたよね」
「うん、本当に君は戸締りしっかりするよね」
「むしろ鍵かけない人のほうがおかしいです」
古びたアパートの一室。さして金目のものがあるわけではないが、近頃物騒だし、あえて鍵をかけない意味もない。
「目的かぁ。目的はあるにはあったんだけど、なんか君の顔を見たら満足しちゃったっていうか」
「じゃあ帰ってください。僕は二度寝したいので」
「ホントに君は寝るのが好きだねぇ」 はじめて会ったのに物知り顔で彼女が言う。
「ところで君、どんな女の人がタイプ? 見た目の好みとかでもいいよ?」
急になんだ。まさかそれが目的だったのか。さては新手のストーカーか。
「……特にないです」
ここで「あなたの容姿が好みです」なんて言ったらさらに粘着される。
「そもそも僕は誰かを好きになっていいような人間ではないので」
「うん? どういう意味?」
「僕はさして価値のない人間だから」
人に誇れるようなものを持っていない。
なにも与えられないし、たぶんなにも救えない。
どこまでも平凡な僕は、誰かを好きになるべきではない。
「そんなことはないと思うけどなぁ」
「あなたに僕のなにがわかるんですか」
「全部わからないけど、わかることもたくさんあるよ?」
「さっきからどういう――」
抗議しようとしたところで、ふいに彼女が僕の体を抱きしめた。
「あはは、まだわたしのほうが大きいね。無理言ってあれを買ってもらってよかった」
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