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「なんなんですかあなたは……」
「それはあとのお楽しみ。とにかく君は自分で思ってるより無価値な人間じゃないよ。それは保証する」
「なにをもって保証するんだか……」
朝焼けがまぶしい。
カーテン越しの朝日が目に染みる。
「君は自己否定が過ぎるんだよ。もっと自信を持っていいと思うんだけどなぁ」
「……自信なんて」
「うん、じゃあ約束しよう」
「約束?」
「そう」
彼女は少し体を離して僕をまっすぐに見ながらこう言った。
「君から誰を好きにならなくてもいい。でも、もし君のことを好きだと公言する女の人が出てきたら、その人にだけは正直に接してみて」
「……そんな奇特な人が出てきたらね」
「言ったな! じゃあ約束! 絶対だよ!」
少し強めに言ってから、彼女はおもしろそうに笑った。
「じゃ、わたしはもう行くから」
「行くじゃなくて帰るだろ」
「いや、行くで合ってるの」
そのときはその意味がわからなかった。
そして彼女は――
「――それじゃ、三年後で君を待ってる」
うれしそうな笑顔を残して、たった一度の瞬きの間に、朝焼けにまぎれてすっと消えてしまった。
「……なんだったんだ」
夢だったのだろうか。
「まあいいか」
まったく不思議な出来事だったが、どういうわけか心が軽くなった気がする。
「……よし」
そうして僕は、またいつもどおり身支度を整え、アパートの一室を出た。
三年後。
僕はそのアパートで一人の女性と出会う。
「あ、すみません! 引っ越してきたばかりで部屋を間違えてしまいました……」そう言った彼女は、照れたように笑いながら隣の部屋へ入っていった。
そのさらに三年後、その女性は満を持して発売されたタイムマシンを「あれ買ってー!」と駄々っ子のようにねだった。
――六年越しである。
あの謎の女性との出会いが、妻とのはじめての出会いだったことに、そのときはじめて気づかされた。
「全然気づかなかった……」
「ひどい話だよぉ!」
「だって髪の長さも全然違うし……」
「君が長いほうが好きって言ったからじゃん!」
「いやそれはそうなんだけど……いや、おまえだって絶対わからないって」
「いいやわたしはすぐにわかるもんね! ってことで次は君! 六年前のわたしに会いにいってきて!」
どうやら僕もあの恥ずかしいセリフを言わなきゃならないらしい。
――『三年後で君を待ってる』
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