三年後で君を待ってる

3/3

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「なんなんですかあなたは……」 「それはあとのお楽しみ。とにかく君は自分で思ってるより無価値な人間じゃないよ。それは保証する」 「なにをもって保証するんだか……」  朝焼けがまぶしい。  カーテン越しの朝日が目に染みる。 「君は自己否定が過ぎるんだよ。もっと自信を持っていいと思うんだけどなぁ」 「……自信なんて」 「うん、じゃあ約束しよう」 「約束?」 「そう」  彼女は少し体を離して僕をまっすぐに見ながらこう言った。 「君から誰を好きにならなくてもいい。でも、もし君のことを好きだと公言する女の人が出てきたら、その人にだけは正直に接してみて」 「……そんな奇特な人が出てきたらね」 「言ったな! じゃあ約束! 絶対だよ!」  少し強めに言ってから、彼女はおもしろそうに笑った。 「じゃ、わたしはもう行くから」 「行くじゃなくて帰るだろ」 「いや、行くで合ってるの」  そのときはその意味がわからなかった。  そして彼女は―― 「――それじゃ、三年後で君を待ってる」  うれしそうな笑顔を残して、たった一度の瞬きの間に、朝焼けにまぎれてすっと消えてしまった。 「……なんだったんだ」  夢だったのだろうか。   「まあいいか」  まったく不思議な出来事だったが、どういうわけか心が軽くなった気がする。   「……よし」  そうして僕は、またいつもどおり身支度を整え、アパートの一室を出た。    三年後。  僕はそのアパートで一人の女性と出会う。  「あ、すみません! 引っ越してきたばかりで部屋を間違えてしまいました……」そう言った彼女は、照れたように笑いながら隣の部屋へ入っていった。    そのさらに三年後、その女性は満を持して発売されたタイムマシンを「あれ買ってー!」と駄々っ子のようにねだった。  ――六年越しである。  あの謎の女性との出会いが、妻とのはじめての出会いだったことに、そのときはじめて気づかされた。 「全然気づかなかった……」 「ひどい話だよぉ!」 「だって髪の長さも全然違うし……」 「君が長いほうが好きって言ったからじゃん!」 「いやそれはそうなんだけど……いや、おまえだって絶対わからないって」 「いいやわたしはすぐにわかるもんね! ってことで次は君! 六年前のわたしに会いにいってきて!」  どうやら僕もあの恥ずかしいセリフを言わなきゃならないらしい。  ――『三年後で君を待ってる』
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加