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知らない学校というのは、どこかよそよそしい。春休みで、生徒がいないことも理由の一つではあるかもしれないが、金澤はこの感覚が苦手であった。新しい学校に入るとき、何か別の生き物の中に潜り込んでいくような、どうにも拭いきれない恐怖がある。
窓からは午後の光が燦々と降り注いでいた。良い陽気だ。
「きっとみんな、センセの話、聞きたがりますよ」
「そうでしょうか」
「はい。ここは見てのとおり田舎ですから。娯楽が少ないんですわ」
長く伸びた廊下はしんと静まり返っていた。
「三年生の教室は三階です」
そう言って、衛藤が階段の手すりに手をかけた時だった。
足音が、聞こえた。
恐らく複数の、子供の足音であった。ばたりばたりと、随分と焦っているような音である。どうやら反対側に走って行ったらしい。次第に音は遠ざかり、やがて何も聞こえなくなった。
「今の」
衛藤はため息を吐く。
「やられた」
「え?」
「休みやって、油断しとった」
「どういうことでしょう」
「ウチらの声で逃げよったんでしょう」
どうやら学校に忍び込んで、遊んでいたのだろう。元気があって、いいものだ。金澤は思わずクスリと笑う。しかし、衛藤はニコリともしなかった。青ざめた顔。どこか思いつめているような表情に、金澤はひやりとする。
「衛藤先生?」
「ああ、いえ……。行きましょ。見れば、分かりますから」
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