ショートケーキ

1/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

ショートケーキ

  眼のなかにとびこんできた、たくさんの光。 あか、しろ、あお、みどり。すっかりクリスマスだね、って笑いあったよね。それから二人で申し訳程度のショートケーキをコンビニで買ったんだ。あんまり振りまわさないでね、そう言われたから慎重に慎重に両手に抱えて家まで運んだ。  あまりにもゆっくり歩くわたしを笑って、あの人はもう一度夜闇のなかを彩る光景を瞳に映した。そして恍惚とつぶやいた。  「ほんとうに……、キレイだ」    ハイヒールの靴を鳴らして、待ち合わせ場所に急ぐ。まだ時間まで十分あるから走る必要なんてない。だけど、早く会いたくて。気持ちが足を動かす。    わたしの二度目の両親。お葬式には何色もの花が遺影の影を覆っていた。冷たくて悲しいはずの一日に、涙腺はどうにも緩んでくれなかった。どうやらとっくの昔に、わたしの涙腺は盛大な音をたてて切れてしまったようだ。  『ぷちんっ』泣かない子供を「恩知らず」とささやく声が聞こえた。      クリスマスの飾りつけをしてあるウインドを駆け抜ける。 手をつなぎ瞳を合わせる恋人たち。ベビーカーの子供の頬を愛おし気になでる若い夫婦。     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!