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ウサギと夏
校舎が白く浮かんで見える。昼間見慣れているはずの中学校の校舎だが、夜見ると、寒々しいというか、コンクリートの無機質さが際立って感じられて、たたずまいの静かさに心がしんとするようだ。
夏とはいえ、夜はやはり薄寒い。俺は、無意識に腕をさすっていた。
「な、お前、親にはなんて言って出てきた?」
俺、高杉光輝は隣で俺と同じく植え込みの陰にしゃがんでいる相手に、ひそひそと話しかけた。
「塾の宿題忘れて、居残りさせられてるって電話しておいた」
小さな声で俺に答えたのは、同級生の畑中恵。高めに結んだポニーテールがしゃべるたびに小さく揺れる。
ふうん。尋ねておきながら気のない返事をして、俺は前方にあるウサギ小屋に視線を飛ばした。月明りの下、学校の校庭の隅の隅にある小さなウサギ小屋が地面に濃い影を落としている。
もう三十分くらいはこうやってあのウサギ小屋を俺たちは見つめている。
ぼんやりと、思った。
ウサギ小屋の主は、寝ているだろうか。それとも、月を見て泣いているだろうか。
俺にしては詩的になってみたつもりだが、らしくない。
「な、ここでいつまでこうしているつもりだよ」
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