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女性も男性もいて、口々にこう言った。
『彼はとても、温かい人だった』。
そして続けるのだ。
『人に恨まれるような人ではない』と。
「同じ会社に勤めてた事務員の若い女の人が、上司にセクハラ受けてたことをずっと誰にも言えずにいて、かなりまいってたんだって」
その事に気付いた光一の父親は、本社に設置されているセクハラ相談サポートセンターに電話し、彼女の事情を話した。
結果、事実を認めた上司は降格異動になった。
「他にも、マジで沢山の人がお前の親父さんとの思い出を語っててさ。その全部が全部、あったかいエピソードばっかなんだよ」
「………」
光一は、黙り込む。
外での父のことは、知らない。
寡黙で真面目で、母に優しくて、自分とは会話がたまに噛み合わず、他愛もない内容でも時事情勢を話しているような気分になる父。
それ以外の父を知らない。
「……だったら、なんで」
光一が俯いた時だった。
部屋のドアが、体当たりとも思える勢いで開いた。
友人と共に仰け反ってドアを仰ぎ見ると、柏木桜子が立っていた。
状況が飲み込めず、愕然とする中でも、光一は思い出す。
そういえばあの日、父に会えずに終わったあの日、自分は桜子をどう守るかに悩んでいたのだった。
すっかり忘れていた。
「私、本当の事、全部話す!」
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