ファーザー

11/17
前へ
/17ページ
次へ
「柏木さん、落ち着いて? みんな、リビングにいらっしゃい」 背後から母親が現れた。 桜子とは真逆の落ち着いた登場に、光一は我に返った。 「え、なんなの? なんで柏木? 本当の事ってなんだよ」 「だから、それを話しにわざわざ来てくれたんでしょう? 今からリビングで落ち着いて聞きましょう」 まるで自分に言い聞かせるかのような口調に、光一はハッと身を引き締めた。 柏木の突然の訪問に最も緊張しているのは、他でもない母なのだ。 今、この家にもたらされる『本当の事』は、父の事件に関係するに決まっている。 『実は私、人間じゃないんです』などと告白されても、この家に一輪の波紋すら生じない。 そのことを、誰もが知っている。 だから母は、誰よりも緊張しているのだ。 光一は立ち上がった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加