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◇◇◇
片桐泰臣が、その少女を見かけたのは、外回りが終わって事務所に帰宅する途中の、午後4時過ぎだった。
ああ、あの子は覚えている。
意思の強そうな目に、真っ直ぐ伸びた背筋。
以前、息子と助けた、息子のクラスメートだ。
確か名前は『さくらこ』で、気が強いので有名だとか。
と、そこまで考えて、泰臣は自然と微笑んだ。
この間息子に訊ねたところだった。
あの子は無事で元気なのか、心配だったからだ。
しかし、しっかりとした足取りで凛として歩く少女の姿を見る限り、杞憂に終わったようだと安心した。
ああ、そういえば忘れていた。今朝、母さんに下着の干し方を注意するのを。
そう考えながら、少女を見送るために緩んでいた歩みを元に戻そうとして、今度は完全に回転を止めた。
少女が立ち止まった。
前に5~6人の男が立ちはだかっている。
気丈に何か声を上げる少女に、男達が歩み寄って、肩に手を回す。
親しげにさえ見える装いで、そのまま歩いて行った。
泰臣は躊躇わず後を追った。
男達が向かった先は、普通に生活していれば到底踏み込まないであろう薄暗い路地裏で、お茶会会場には見えなかった。
更に厄介なことが発生した。
男達のうちの一人が、見張り役として戻ってきた。
つまり、後を追う泰臣と、バッタリお見合いすることになった。
泰臣は考えた。
ここでは、たまたま居合わせた通行人は無理がある。
こんな場所をたまたま歩く人間など、ロクなものではない。
そこで思い出した。
確か息子によると、自分は警察官のはずである。
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