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この男達は、自分を一体どんな武器で殴っているのだろう。
拳にしては、随分痛い。
無防備な頭と背中が、執拗に殴打されている。
横腹辺りを蹴られたりもするが、この場所を動くわけにはいかない。
まあそれはいいとして、だ。
「……ひとつ、忠告する。俺は、警察官だ」
絞り出すように、しかし、男達に聞こえるように、なんとか声を上げた。
「さっき、見張りの奴の、写真を、本部に送信した。この子には、しっかり、警護をつける。お前らもう終わりだ。ざまーみろ」
当然嘘だが、怒りの矛先は自分に向かえばいい。
それに、脅すことで少女への今後の接触は無くなるだろう。
とても、大切なことだ。
逆上した男達の攻撃が激しくなる中、泰臣は声を潜めた。
「君は、何があっても黙っていた方がいい。表に出る必要はない。もしも表に出れば、きっと嫌な思いをたくさんする。言っている意味、分かるね?」
返事は、鼻を啜る音だけだった。
「俺の上着を着て、黙って逃げなさい。逃げ道を作るから。そして逃げてからも、黙って幸せになりなさい」
泰臣は、本当に逃げ道を作ることに成功した。
少女が走り去る姿を見届けた時、頭に衝撃が襲い、目の前が一瞬で真っ暗になった。
何か大きなものが、プツリと切れたような感覚があった。
母さんは必ず、分かってくれる。
光一にはまだ、無理かもしれないが。
しかしながら、死ぬ前に光一に伝えられて良かった。
母さんと、そして母さんの下着を守れと。
意識が遠退き、全てが真っ暗になった。
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