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◆◆◆
「やっぱりあの人は、ただでは死ななかったのね」
リビングで桜子の話を聞き終えた母親は、大きく息をついて、頷いた。
そういう問題ではないし、相応しい言葉でもない、と光一は呆れる。
それでも光一は、清々しい母親の表情と同様、自分が今、信じられないほど霧が晴れた思いであることを自覚していた。
父は、桜子を守った。
「私、明日ちゃんと警察に行って、全てを話す」
正直、光一には何が正しいのか分からない。
事実を語ることで、桜子の周囲はきっと慌ただしくなるだろう。
思い出したくない事を思い出し、明言する必要も迫られる。
桜子は辛い。
でも、父に対する憶測は一蹴される。
「別にいいんじゃない? なにもしなくて」
母があっけらかんと言った。
「捕まろうが、野放しになっていようが、反省する人はするし、しない人はしない。こんなこと言ったら、法も何もあったもんじゃないけど。放っておけば? わざわざ苦しい選択しなくていいのよ」
「でも!」
「いいのよ、それで。あの人が望んだことだもの」
母はそう言って、穏やかに笑った。
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