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返事をする間もなく、父の言葉が続いた。
「女性は、我々男よりも、弱い生き物だ」
突然何を言い出すのか。
「今の世の中、男女平等が叫ばれているだろ。あれは、不可能な事なんだ」
タオル片手に父は言う。
「そして女性は、我々男よりも、とても強い」
「矛盾発見」
さすがにつっこんだ。
しかし父は負けていなかった。
「力は弱く、心は強い。そんな女性を男が守らずして、社会が成り立つと思うか。心はしっかりしているのに、力でねじ伏せられるなんて、悲しすぎないか」
言いたいことは、何となく分かる気がする。
でも、下着には直結しない。
「だから、父さんは母さんを守らなければならないし、お前も、母さんを守らなければならない」
『下着を守っている』ことに繋げようとしても、どうにも納得できない。
しかし、父がこれほど饒舌なのは初めてなので、追求しないことにした。
ただ、ひとつだけ言いたい。
「でもさ、さっきの父さんの様子は、通行人からみれば、下着泥棒そのものだったよ」
光一の言葉に、父は振り返った。
そして、真顔で呟いた。
「そうか。俺は下着泥棒なのか」
「忙しいね。警察官になったり泥棒になったり。正反対の職業だし」
「下着泥棒とは、職業なのか」
「さあ」
不毛な会話は、朝御飯を告げる母の声で終わりを告げた。
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