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光一の父親は事故でも病気でもなく、事件に巻き込まれて死んだ。
薄暗い路地裏に、使いふるされたぼろ雑巾のような姿で横たわる姿を発見された。
光一はしばらく学校を休んだ。
いや、全てのことを、休んだ。
周囲の激動など光一には関係なく、ただ父親が消えた現実をどう受け入れるべきか苦悩した。
現実は現実だ。父親が死んだことに変わりない。そういうことではなく、なぜそんな現実が起きたのか。
光一には、それが分からなかった。
事件には目撃者があまりに少なく、父親を死に至らしめた犯人は、まだ捕まっていない。
後頭部や背中に対する殴打の痕ばかりで、正面は傷ひとつ無かったことから、恐らく丸く屈み込んだ状態で暴力を受けたのだという。
発見現場は昼間でも薄暗く、太陽がそこだけ照らすのを忘れているかのような路地裏で、監視カメラの目も届かない。
そんな寂しい場所が、父親の最期の場となった。
なぜ、そんなことになったのか。
不思議と光一には、誰がこんなことをしたのか、という最も欲すべき事実に、あまり興味がなかった。
なぜ父親は、そんな惨めな死を選んだのか。
何が原因で殺されなければならなかったのか。
光一は、それが知りたかった。
体重が減った。
お風呂にも、数日入っていない。
母親も何も言わなかった。
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