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『待宵草 黒猫仔猫 人斬りと……』 (※ペコメの子猫を仔猫に)
あれからしばらく後の真夏の夜、猫に話しかける宗次郎がいた。
「クロ、お前、親になったんだな。引っ越しなら手伝ってやる」
「にゃ」
黒猫が若葉色の目をその痩躯の青年に向ける。
「お前が気に病むことなどないからな。大勢を斬ってきた私が布団の上で死ぬ、それは動かせぬことだったのだ」
この時代、黒猫が労咳をも治すという俗信があった。
「一、二……五つの命は預かったぞ。クロ、ついていくから前を行ってくれ」
月明かりの中を仔猫を懐に、かつての新撰組の剣士が黒猫と歩く。月の欠片のような待宵草が咲く道を。
「にゃあ」
「クロ、ここが、お前たちの新しい棲処なのか。元気で暮らしなよ。もう逢うことはないだろうが、お前には夢を見させてもらった。ありがとな」
「にゃうん」
母猫は月明かりにゆっくりと溶けていく人影を不思議そうに見た。
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