【一】

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 うかつだった――。今回の討伐依頼をギルドで受けた時、受付の職員から言われた言葉を今になって思い出していた。 「最近ハンター狩りが増えてきてるから気をつけろよ……」  ハンター狩り。その名の通り、賞金首のモンスターを討伐した直後のバウンティハンターを襲って、報酬や宝を横取りする犯罪が横行していたのだ。 「くそっ! どうりで報酬が破格なわけだ」  やり場のない怒りは自分に向けたものだった。 「上等だ」  怒りを熱意に変え、セインは生き残るための思案を巡らせ始めた。  恐る恐るドラゴンの口から出て矢を調べる。矢の長さからみて恐らく武器は長弓。鋼の矢じりと木製の矢柄は一般的なもの。だが矢羽を見て目を丸くした。 (ガルーダ……!)  東方では神格化もされている巨鳥、ガルーダ。紅を基調として虹色に輝く独特の羽色から、それを瞬時に見抜いた。その輝きに、セインは胸が熱くなるのを感じていた。ガルーダの羽を矢羽に使っているハンターはごく一握り。だが一人だけ、心当たりがあった。 (メイリア……)  かつて命と誇りを賭けて愛した女性……。有能なアーチャーとしてバディを組み、激戦をかいくぐってきた戦友でもあった。これまで何人かの女性ハンターとパーティーを組んだことがあるセインだったが、背中を任せられる相手はメイリアだけだった。  絶大な信頼関係で結ばれていた二人が男女の関係になるのは自然な流れだった。  激辛料理を食べて死にかけるセインを爆笑するメイリア。討伐の依頼が無くて湖畔で釣りをして過ごした日々。並んで月を見上げながら、触れ合う手と手。  お互いに愛の言葉を紡ぎ、見つめ合う瞳。やがて、どちらからともなく重なっていく唇……。  もう4年が経っていた。しかしセインは、そんな甘くときめく思い出を否定し、心の奥に押し込めた。 (違う。もう俺の知っている彼女じゃない……)  全てを無かった事にしようとするかのごとく、否定する。  さもないと、 (でも、あの時……)  と、彼女への愛が顔を覗かせるからだ。しかしさらなる矢が、それ以上思い出に浸ることを許さなかった。  ドラゴンの死体からわずかに離れた地面に、その矢は突き刺さった。矢文を添えられて。
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