【一】

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【一】

 ごつごつとした、固くて黒い大地にセインは腰を下ろしていいた。それは小丘や塚という方が正しいかもしれない。臀部からほのかな温かさが伝わってくる。  愛用の長槍の柄を右肩に乗せ、革袋に入れた水を飲もうとしたが、すでにカラだった。急に空腹を覚えて装備品のポケットをまさぐると、小さな木の実が1つだけ。何時間ぶりの食事だろうかと思いつつ、口に放り込んで豪快な音を立てる。端正な顔立ちを無精ひげが台無しにしていた。  乾いた岩石と低木が点在する荒野。雲の群れが空を流れ、穏やかな時間がそこにはあった。 「よし、メシのタネを作るか」  戦いに疲れた自分の体を奮い立たせるための台詞を発して立ち上がる。すらりと伸びた細身の足で丘を滑り降りると、そこには巨大なドラゴンの頭部があった。  そう、セインがつい先ほど仕留めた賞金首だった。  牙と爪を中心に、経時劣化が少なく、一人で持ち帰れる部位だけをはぎ取った。ドラゴンの討伐はボロい。討伐報酬だけでなく、ドラゴンの体の素材も高く売れるからだ。その分危険も多く伴うものではあるのだが。  ひもで縛り上げた素材を背負った瞬間、ふくらはぎの辺りにチクリと刺すような刺激が走り、細長い物がセインの視界に入った。蛇かと思って視線を合わせると、それは蛇ではなく、地面に突き刺さった一本の矢だった。  大地がえぐれるくらいの強さで地面を蹴り、体を回転させながらドラゴンの体の陰に隠れ、槍を構えた。  すぐに次の攻撃が来た。風を切る音と共に、頭上から矢の雨が降り注いできたのだ。 「ヤバ!」  セインは死んだドラゴンと目が合い、削り取った牙の間から口の中に飛び込んだ。矢の豪雨がドラゴンや地面を叩きつける音がする。間一髪やり過ごすことができた。安堵の息が漏れる。よく見ると、左のふくらはぎには小さな擦り傷ができていた。
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