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玄関の扉をじっと見つめていると、ため息が漏れた。
いくら待っても帰って来ないのはわかってる。
あの日、この手で感じたのだから。
だんだん冷たくなっていく体温を。
あの日、この目で見たのだから。
大勢の人に弔われる様を。
父はもうこの世に存在しない。
頭では理解していても心が現実を受け入れない。
ここで待っていれば、ふと帰ってくる気がしてしまう。
軽自動車に乗って、ガタガタ音を立てながら停車して。
ガチャリと大きな音と共に玄関の扉が開く。
「ただいま」
って何事もなかったかのように微笑んで。
「心配したんだよ」
って私は怒るのだ。
……なんて、そんなこと起こるわけないか。
ふらふらと立ち上がり、寝室に向かう。
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