辻占

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 ケマリには敵味方がない。中国におけるシュウキクは球門と呼ばれるゴール状のものに鞠を蹴り入れる、サッカーに近い形式でも行われていたが、ケマリは鞠庭に入った八人が一つの鞠を落とさぬように蹴ってその数をどれだけ伸ばせるか。  だから前に強く飛ばすのではなく、高々と上げる。沓裏を地面から浮かせずすり足で、上体をぴんと伸ばしたまま動く。蹴り足の膝を曲げず、地面すれすれで、足首を直角に固定したまま右足の甲に当てる。回数に制限はないが、相手からの鞠を支配下に置くのに一回、自分の技を見せるために一回、次に鞠を渡すのに一回の計三回費やすものという暗黙の了解がある。  大切なのは「うるはしく上げる」ことである。そのために必要なのが色と音(ね)だ。色とは鞠の回転で、自分や次の者がさばきやすくなるような回転をかけるのをよしとする。音は文字通り鞠を蹴るときの音で、当たりどころが良いと鞠は小気味良く、鼓を打ったような甲高い音とともに空に上がる。  何より、その上げる高さ。  まるで鞠足を邪魔するように鞠庭に立てられた四本の懸であるが、その高さは一丈半、4メートル半と決められている。これより高すぎず低すぎず、虹がかかるように上げるのが「うるはしく上げる」ということである。  そう、かくのごとくに。
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