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「ああっ、もうっ」
ついにむしろから腰を上げると、きっとにらんだ空に向かって言い放つ。
「そない言わはるんやったらやったるわい」
そう言うとあっけに取られた一座の前を横切り、長老のマイクを奪い取る。
「えー、本日は寒い中お集まりいただきありがとうございます」
ヤケだった。ゆでダコのように紅くなった顔がそれを雄弁に語る。
「今日ここに来る前、清水寺行かはった人、どれぐらいいます?」
わらわらと手が上がる。京都の東に位置する音羽山の山中にある清水寺、祇園さんこと八坂神社を経て下鴨へ行くのは鉄板の初詣コースだ。
「下鴨でお守り買うたら他のお寺のお守りは置いてってくださいね。神さん同士がケンカしはりますから」
どっと笑いが起こり、そぞろ歩きで帰途につこうとしていた者も思わず耳を傾ける。
「清水さんいうたら舞台が有名ですやんか。あの広い境内の、どこからどこまでが舞台か知ってはります?」
答えようとする者はない。誰一人そんなことを考えたことがなかったのだ。
「答えは柱の欄干。端から伝っていくと、角張った欄干があるところから急に丸うなるんです。その丸なってるところが、いわゆる清水の舞台です」
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