辻占

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 禿の話はさしてうまくない。ただその場にいる大勢の人たちと交信できる。その手段が鞠が、会話か。違いはそれだけだ。 「ご存知の通り、清水の舞台の下は切り立った崖です。なんで清水の舞台から飛び下りるなんて言うようになったか。願をかけてから飛び下りて、生きて帰ると願が叶うという信仰がありましてん。今そんなことしよったら警備員さんが連れていかはりますけど」  うんちくと笑いのサンドイッチに観客がひきこまれる。予定終了時刻は過ぎ、ホウキを手にした神社の職員はすっかり手持ちぶさたである。 「・・・昔、鞠の聖と呼ばれた名人がいてまして」  声のトーンが落ち、視線が空を向く。何もない空を。 「その名前は藤原通成(みちなり)といいまして、平安時代に大納言にまでならはったお公家さんです」  空を見上げたまま、ふんふんとうなずくと続ける。 「この通成という方、見た目は高貴で美しく、学問にも秀で芸達者、性格も信心深く人情に篤かったと言われております」  禿の目は泳ぎ、口の端が心なしかひきつって見える。     
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