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「中でも蹴鞠の腕前、いや、足前はすさまじかったそうで数えきれないくらいの伝説が残ってます。かかとで左右百回ずつ蹴ったとか、思いきり蹴り上げた鞠が雲に隠れたきり落ちてきたとか、鞠を蹴ったまま家来の肩を飛んで当たって最後に頭に乗られた坊さんがせいぜい笠が頭にのっかったくらいにしか感じなかったとか」
しゃべり倒す禿、丸でその目で見てきたかのようになおも続ける。
「中でも有名なんが、父親に連れられて清水さんに行って、父親が参拝してる間に右足で鞠を蹴りながら左足で欄干を端から端まで渡った話です。欄干は丸くて、外に足を踏み外したら奈落の底。それを願かけとかやなく、単にヒマだったからって」
そこまで言うと庭の中央にに目をやる。白鞠が木から落ちた果物のように転がっていた。
「実はうち、この成通と関係があります」
おおっと言うどよめきが、次の言葉で爆笑に変わる。
「単に名前が藤原ってだけなんですけど。まぁ同じ名字なんで、紀香はんや竜也はんともどこかでつながっとるかもしれません」
いくぶん長すぎた前説を経て鞠庭の鞠を拾う。
「この庭は清水の舞台ほど広くはありませんけど、それでもこれを鞠を落とさず、足も踏み外さず渡りきってみたいと思います」
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