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ぽつら、ぼつらと鞠庭がしずくで濡れる。しかし太陽の周りには雲ひとつない。狐の嫁入り、というやつである。
蹴鞠は神事、つまり日本古来の神に供えるためのものである。だから奉納が行われるのは神社であってお寺ではない。
またその根底にあるのは「和」の精神である。聖徳太子が十七条の憲法にて和を以て尊しとなすと定めた和は、そのまま鞠を蹴る人たちが作る「輪」にも相通じる。
ゆえにたった一人で猿回しのようにその技をひけらかす、などというのは蹴鞠の精神にもとるばかりか、下手すれば神をも愚弄する行為とさえとらえられかねない。
にわかに神社側の者が色めき立つ。神社の敷地内、しかも神殿の前を見せ物のために貸すことはできない。
それをさえぎるのは鞠足たちであった。禿が何を思ってこのようなことを言い始めたかはわからない。が、それを問い質す前に壁となった。
藤原さんの孫がお稲荷さんにつままれた、そう噂になったのは先一昨年のことだ。
お稲荷さんは京都駅の南にある伏見稲荷大社のことで、その化身が狐である。
この子が蹴鞠を始めたのは、鞠の練習に欠かさず連れてきた祖父の影響だった。
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