辻占

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 しかし、良いことばかりではない。  むしろ目立つようになったのは、その奇妙な言動の数々だった。  まず見ての通り、ぶつぶつと独り言をつぶやくようになった。もっと言えば独り言ではなく、何者かに話しかけていた。一人と話している時もあれば大勢と話している時もある。しかしその視線の先には誰もいない。  独り言のみならず、行動も奇抜になった。  昨日は先斗町で、今日は錦市場でその姿を見たと目撃談が上がる。ただ歩いてるのならそんなことにはならない。噂になるのはその足元に必ずサッカーボールがあるからだ。狭い路地を、買い物客でごった返す商店街をドリブルしながら走り抜ける。そういう催しなのかと勘違いした観光客にカメラを向けられてもお構いなしに。  とりやさんとこのお子さん、サッカー頑張ってはりますなぁ。  京言葉でそれは、ボール蹴りながら歩くな、危ないやんかという意味になる。あまりにも出没の噂が絶えないため鞠の練習のたびにほどほどにとたしなめたが一向に聞く耳を持たない。  狐は心のすき間を突いて人に憑く。大切な人の死が大穴を空けた心に、血生臭い歴史を併せ持つこの町の怨霊が住み着いても、何の不思議もない。
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