辻占

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 一座となって鞠を蹴るのであればもししくじったところで許しあえばよい。だが一人で蹴るとなれば過ちは全て自分の責任。  ひとつの鞠の前に、人はみな一人である。 「アリー」  その孤独を引き受けると、迷いもろとも、懸のはるか上へと鞠を蹴り上げたのだった。  雲にかかるかと思った鞠はやがて力を失い、今度は同じ速度で禿の頭上に落ちてくる。  それに合わせるように左の爪先を浮かせ、わずかに宙に浮くと肩にかかった鞠は胸から腰と滑り最後は曲げた右足で止まる。小さからぬどよめきが起きた。 「えー、これが身傍鞠(みにそうまり)。体に当たった鞠は強く跳ね返りますが、これは人間の体が重力に縛られているため。ですが真上に飛び上がり、その一番高いところにいる瞬間、飛び上がる力と地球に引っ張られる力が等しくなった時だけ体には何の力も加わってないのと同じになり、鞠には地球の重力だけがかかって体を伝って落ちてまいります」  長々とした説明の間も鞠は小刻みに上がり、早くも巽の懸にさしかかる。それまで南に取っていた進路を西に向けなければならない。  右足から上がった鞠が肩に当たって左に逸れる。禿をなびかせ、左のかかとを軸に東を向いた。 「ヤクァ」     
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