辻占

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 右足で背後に上げると、今度は時計回りに踵を返して西を向く。鞠はその右足に落ちた。砂利道の隅にえぐりこんだような跡をのこして。拍手喝采、投げ銭まで落ちた。 「今のが、その、返足(かえりあし)。ちょうどバスケットボールのピボットターンのように左足を軸にして回りながら鞠を落とさぬように蹴るのでございます」  薄高く盛られた砂利の上に沓跡を残しながら今度は坤の懸が目前に迫る。また同じように返足を打とうとして右足で蹴り上げたが、鞠が足の甲ではなく母趾球、親指の付け根に当たってしまう。当然鞠は前にこぼれる。 「オウ」  右足から滑りこむ。地面すれすれで爪先にひっかけた鞠が北の方角に。砂利の山を崩していた左足から立ち上がる。左足は砂利の道を踏み外してはいない。かろうじて残した鞠が落ちるところへまたも身を投げ出す。今度は高々と上がり、砂にまみれた袴を立てる足を立てる余裕があった。坤の懸を過ぎたところで拍手に混じって口笛まで聞かれた。 「これが延足(のびあし)ですな。スライディングしながら遠くに行ってしまった鞠を拾う。名人と呼ばれる人になると滑った跡が一間ほどにもなると言われとります」  なるほど、禿の後ろには5メートルほどの滑走した跡がはっきり残されていた。
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