餡炊き三年、餡練り十年

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 二人が狭い階段を踏み外さないギリギリの速度で降りると、テレビの前には先客が。長い髪がテレビの光に透けてブロンドに見える。振り向くと黒縁の眼鏡を乗せた高い鼻が白い肌に影を落とし、机に突っ伏してついたのであろう頬の筋に重なった。 「勉強せんでええんか浪人生」 「これ見逃すくらいなら三浪してやる」  いつもならささやくように話す声が上ずり、早口になっている。  玄関から聞こえるぶしつけな大音がそれに水を差した。  爪が油で暗く汚れた指にいくつもの指輪。アッシュグレーの髪をソフトモヒカンにしている。眉毛もきれいなアーチを描いているが右の耳だけが餃子のようにふくれていた。 「お早いお帰りで」 「マナ」  小柄な少女にとがめられた黒人少女がへろっと舌を出す。眼鏡少女が立ち上がると短い髪の少女の前に進み、その顔を見下ろす。 「なんだよ、楓」  食ってかかるような相手の態度を気にもかけない。 「きたよ」 「マジかっ」
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