花菖蒲(前半)

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 葛飾プリンセーザ13期生の生活が始まった。  都内の私立校に通う楓瑞穂は朝の六時には白をベースにしたブレザー姿でJR松戸駅に自転車で向かう。それ以外は思い思いに朝食を食べると松戸市内の公立校に向かう。  瑞穂を除く四人の通う中学は一学年12クラスのマンモス校で、全員が別のクラスに分けられた。特に荒れているわけではないが、セーラー服で登校すると学校指定のジャージに着替えなければならないのは気が滅入った。  放課後は一度家に戻って八街駅へ。全員が葛飾クラブのチームカラーである江戸紫のジャージに着替えて北千住駅まで。そこからは徒歩。実家から片道一時間かけて通っている山路寛子はたいてい息を弾ませて千住スタジアムの脇にあるサブグラウンドにやって来るし、補講があると瑞穂は遅れてくるしかない。  プリンセーザの練習は週四回、午後五時から七時。一見少ないようにも見えるが、シーズンが始まれば土日にはリーグ戦やトップチームであるハイーニャの運営ボランティアもすることになるという。  練習が終わると駅とは逆方向にあるクラブハウスへ。シャワーとカフェテリア形式の食事が与えられる。トップの選手や男子とも一緒なので、会話には事欠かない。  帰宅する頃には九時を回る。ようやく自分の時間だが、宿題やら洗濯やらやらなければならないことは山のようにある。  寝る時間はまちまちだが、気づいたら寝入っていることのほうが多い。  このサッカー漬けの毎日は、彼女たちが引退するか移籍するまで続くことになる。
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