花菖蒲(前半)

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「あとな、テクニコって呼ばんと怒る」 「いずこの言葉にござりまするか」 「ポルトガル語、南蛮や」  一語一義、という言葉がある。これはスポーツ用語である。  サッカーのように世界中で行われてるスポーツの場合、一つの物事に様々な呼び名がある。そもそもサッカーという言葉が母国イギリスでは通じない。これはアメリカで生まれたスラングであり、イギリスでは単にフットボールと呼ぶ。ドイツではフスバル、中国では足球(ズージョウ)。  一語一義とはこれらを統一して混乱を避けるという考え方のことである。葛飾クラブは在日ブラジル人が作ったクラブなので、それは当然ポルトガル語である。  そしてカテゴリを問わず、システムも4-4-2と決まっている。選手を縛るなと三流ライターがペンの暴力を振るいそうだが持ち場を放棄すれば守りが破綻する。  一番後ろにはゴレイロ。  そのすぐ前にザゲイロが二人。その左右にラテラウが一人ずつ。この四人が最終ラインを作る、いわゆる4バックだ。  中盤にはボランチとメイヤーが二人ずつ。日本でもなじみあるボランチ二人が真ん中に構え、その前でメイヤーが創造性を発揮する。  前線にはアタカンチがツートップを組む。どちらもがストライカーで、アラ(ウイング)は置かないのが葛飾クラブ流。  杏木はボランチである。このポジションに守りの選手という意味合いは薄く、ピッチの中心でゲームをコントロールする舵取りの役割を求められる。もっと前がええと杏木は反発したが却下された。プリンセーザに来る選手は全員がエースで10番をつけていた女子ばかりなのだから。  また背番号はレギュラーからポジションごとにつけるものも決められている。ブラジルではボランチは5か8。杏木がもらったユニフォームには35とあった。第三チームのボランチ、という意味だ。中一から高三生まで所属するプリンセーザでは大きな番号からスタートし、自分の力で一桁をつかみ取るのだ。
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