寒い寒い、寒い。

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 5kmの道のり、自転車で25分。全力立ちこぎ、信号無視にイヤホン。誰もいないアパートの二階に急ぐ。  寒さが風を切って身に染み込んでくる。太陽が沈んで約6時間。吐く息の白さにキャンパスを思い重ねる。何か甘いものが食べたい。息のキャンパスにシュークリームを描くとすぐに僕の体がかき消していく。足の指先は、手の指先は、耳は、だんだんとだんだんと気温を下回っていく。僕に驚いて飛び立つスズメは完全に夜を満喫している。ネズミや猫をも驚かしながらただ帰るためだけに自転車をこぐ。  夜空に浮かぶ母の豚汁、父の叱咤激励。  少し暖かくなった部屋の鍵を取り出して、右手と左手をこすりつつドアノブをまわす。ちょっとした気温差に咳き込みながら30%引きのシールが貼られた牛肉コロッケを電子レンジに入れる。  時計を見るともう日付が変わろうとしている。電子レンジから取り出したコロッケから立つ湯気に手をかざす。手につく水滴は綺麗に透き通っている。箸でコロッケを割るとコロッケよりも大きなもっとずっと大きな湯気が視界を奪う。せめて人肌ほどの暖かさの布団で寝たいと布団乾燥機を起動させる。  隣の部屋からドン、ドン、ドン。  僕は静かに停止ボタンに指をかけほんの少し力を籠める。音が死んだ。静寂、暗闇。そして、冬。おやすみと呟いた声はどこかにすうっと吸い込まれていった。
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