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鼻歌交じりに歩いていると、見えてきたのは錆び付いたボロアパート。
決めた、次はこのおうち。
コンコン、ドアをノックして、深呼吸して声を出す。
「こんにちは、ぬくもり宅急便です!!」
あれれ、誰も出てこない。おかしいな、いるはずなのにな。
もっともっと深呼吸をして、大きな声でもう一度。
「こんにちは!!!ぬくもり宅急便です!!!!!」
扉が開いて出てきたのは、髭ぼーぼーのやつれた会社員。目の下には隈がくっきりで、ぶつぶつ何かを呟いてる。
おうちの中には山積みの紙。ビールの空き缶もたくさん転がってる。
「うるさいな、早く資料をまとめなきゃいけないのに、期限は明日なのに、眠い、うるさい」
「そんなこと言わずに!!あなたにお届けものがあります。今出しますので、お待ちください。」
持ってた袋をゴソゴソ漁ると、出てきた出てきた。この人にぴったりな『ぬくもり』が。
小さな包みを手渡すと、彼は虚ろな目のまま受け取った。
でも、中身を確認すると、男は小さく微笑んだ。
「ああ、そうか。最初からこうすれば良かったんだ。」
渡したマッチに火をつけて、紙の束に投げ混んだ。男はその場に寝そべって、そしてゆっくり目を閉じた。
「はは、燃えろ、全部燃えちまえ。これで仕事をしなくて済む。俺はようやく眠れるんだ。あはは、はは、ははは、」
嫌いな仕事がなくなって、彼はとっても嬉しそう。
よかったね、よかったね。
喜んでもらえて、僕もとっても嬉しいな。
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