金曜の女

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金曜の女

 由亜の遺体は、二日間に亘り無断欠勤をし、電話にも出ないことを不審に思った由亜の直属の上司が、由亜の住むマンションの管理人に連絡したことにより、すぐに発見された。  その日の午後、職場は由亜の事件の話で持ち切りとなった。みな、天使のような由亜が死んでしまったことに、深い悲しみの声をあげていた。しかも殺されたらしいというショッキングな噂はあっという間に社内中に広まり、それは時間を追うごとに、噂から真実へと変わった。  ほとんど仕事が手につかないまま終業時刻となり、ひとり家に帰った。  夕闇に染まる居間に一歩足を踏み入れると、ふいに、雀に餌をあげていなかったことを思い出した。今朝、私は生まれて初めてと言っても過言じゃないほどの寝坊をしたからだ。 「こんな時間にいないよね」  そう呟いて窓を開け、小さく悲鳴をあげた。  私の視線の先、梅の木の根元に、赤黒い血にまみれた雀が死んでいたのだ。
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