金曜の女

2/6
前へ
/56ページ
次へ
 途端に、由亜と過ごした日のことが、ぐるぐると頭を駆け巡り、急激に悲しみが襲い、涙があふれた。 「由亜ちゃん、ごめん……」  昨日の朝、由亜は着替えてから出勤したいと言い、自分の家に帰った。あの時、由亜を引き止めていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。きっと犯人は、ずっと由亜をつけてきて、うちの前で由亜を待ち伏せしていたのだ。  ストーカーを甘く見過ぎた。  夕闇に染まる庭に、ぽつんと残された雀の死骸。その光景は、私のなかで深い後悔となり、暗く揺らめいた。  ようやく涙が止まり、気持ちが少し落ち着いた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。  窓を閉めテレビをつけると、ニュース番組が由亜の事件を伝えていた。  美しい由亜の顔写真が画面いっぱいに映り、事件の詳細が語られる。  それによると、由亜の遺体は鍵のかかった部屋のベッドに横たわっていたという。鋭利な刃物のようなもので、身体中を数十箇所も突き刺されていたことと、部屋を荒らされた形跡がないことから、怨恨による顔見知りの犯行の可能性が高いということだった。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加