土曜の女

4/11
前へ
/56ページ
次へ
「東京と大阪だし、バレるはずはないと思った。木村なんて苗字はよくあるし、最初は独身だって言ってたんだ。だから、お前が俺の嫁だなんて、あいつはわかるはずがなかったんだ。それなのに……」  その体が細かく震えていた。 「お前と同じ会社だってことも、もちろん知らなかった。先週の土曜、あいつから聞いたんだ。同僚だって」  同じ会社? 同僚?  「ちょっと待って。若い美人って、それってまさか……由亜? 由亜のことを話してるの?」  私の言葉に孝志はこくりと頷く。 「嘘……」  途端に、爽やかな朝日が射し込んでいた部屋が、闇に包まれたように暗くなった。そう感じた。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加