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「「…………………」」
お互いに長い沈黙が走る。カインと一緒に振り返った先の路地の陰りに、さっきまではなかったはずのものが置かれ、張り付いた丸い模様がこっちを見ているように向けられている。
暗くてあまりよくは見えないが、人形がある。_さっきまでは、なかったってはずの人形が。
なぁ、あそこに、人形ってあったか?
一見して見ると、不×家のペコちゃん人形に激似だが、それは顔と等身だけで他はピンクのチャイナ服におだんご頭中華娘風の人形だ。
「なかったですねぇ。もしかして、アレですか?ヌオヌオちゃん人形」
マオマオな。
「ルイの似顔絵の感じを見ると、だいぶアレですよね」
似顔絵?そんなの描いてたか?
俺は全くそんなのを見ていない。カインがポケットを探り、折り畳んだ紙を広げて俺に見せてきた。
っ!?___な、なんだこれっ!?
「これが髪で、これが口と鼻、そして目の感じがほら。俄然あれとそっくりじゃないですか?」
………本当に、あのルイが描いた絵なのか?
下手くそとか、そういう次元の画力とは言いがたい、見た瞬間色相がおかしくなったんじゃないかと錯覚するほど__
常人には狂気しか感じない、色んな物の感覚が狂いまくった線が紙一面にグルグルグル渦巻いている中に描かれた、やたらと目玉のデカイ化け物の絵。
しかもでっかい歯列の並びをガン開きに見せて笑ってる。思わず引いた。下手とか上手いってレベルじゃない、もっと別次元の何かにぶっ飛んでやがる。狂乱と狂気って言葉がよく似合う。
これとあの人形を見比べても、明らかに合致するとは言いがたいのに、こいつ、何処と何処を見比べて似てると言ってるのか。
髪なんて無数のトゲトゲの針山でおだんごの形を成していない。口と鼻はまだしもこんなガン開きで狂気効かせて笑ってない。つかこれ垂れてるの血か?ただインク掠れただけか??
目なんてこんなTHE眼球って感じでもねーし!!血走ってもねーぞ!!!
「どうしたんですかヤス。顔が真っ青になってますが?怖いんですか?」
…これ、本当に、ルイが描いたのか?
「そうですよ?ヤスは知らないだろうからって。いやぁ、親切ですねぇ」
親、切…?
俺の為に描いたってこの絵が、親切……?それとも何か?俺には狂気狂乱の絵柄に見えるよう細工でもされてるのか…?
「…?ヤス、ちょっと見てくれません?あの人形、近づいて来てませんか?」
カインが先に絵から顔をあげて人形のいる先を見て俺の肩を叩いてそう聞いてきた。
俺も言われて顔を上げてみると………確かに、なんかさっき居たところとは違うところに立っている。
つか、さっきよりも近づいてきてないか?。さっきよりも、かなり近場に見える気がするぞ?
いや、よくよく考えれば微妙な位置でそうでもないと思えるところもあるが…
「ちょっとここの住民さん?あれって…」
パタンッ____
カインが上から話しかけてきたおっさんに声をかけようとした瞬間におっさんの姿はなく、ベランダは閉められた。
「…あぁ」
……………嫌な予感しか、しない。
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