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「夜が一番、全て見える。昼には見れなかった物が全部、映し出される。だから、私は夜が好き」
そう言って鉄格子の間から引き抜いた足をコンクリの地面につけ、立ち上がった。身長も足が長いせいか、ルイくらいはあるように思える。
「鳥籠の中で育った鳥は、外じゃ生きていけない。私もそう。ここ以外の場所じゃ、きっと生きていけない」
ブルゾンのポケットに両手を深く突っこみ、チロチロと燃えているような深紅の色を宿す瞳が俺に向けられた。
「ヤスはいいね。自由に好きなこと、やれてるみたいで」
…別にそんなことないと思うが。なんだよ急に。
「私は出来ないから。あんたが羨ましい」
お前が俺の何を知ってるってんだよ。昨日会ったばかりで。
「私には分かる。分かるから、言ってる」
ポツンとそう呟いた後、足元を見ながらクスッと笑いこう言った。
「今日はダメだけど、明日またここに来てくれたら、面白い所に連れていってあげる。勿論、それも持ってきていい」
カメラの入った鞄を差して、俺にそう告げた。
「夜は撮るななんて言われてるかもしんないけど、無視していいよ。『あっち』はあの人らの専門外…むしろ、あんたに撮って欲しいものがあるから」
…撮って欲しいもの?『あっち』って、何の事だ?
「行けば分かる」
その怪しい微笑は、手元にカメラを持っていたら思わずシャッターを切っていただろう。
____魔窟の夜に現れる少女の姿は、゛在りし日 ゛が過ぎ去ってもずっと、俺の脳裏に焼き付く事になる。
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