21人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
____
「写真ほとんどダメだったの?」
あぁ…。サイファ達の写真とか人が写ってるのはほとんど全部。最悪だ。
「残念だったね。みんなが聞いたら、きっとがっかりするよ」
今日の撮影は、玄関市場だ。ちょっと買い物ついでにルイに付き合ってもらい、開いていないシャッターの前で露店を開いて商売している人間や遊び回る子供…の姿をなるべく写さないように許可を得てカメラに収める。面白くもない撮影会。
当たり障りない写真ばかりだと、流石に飽きてくる。そもそも俺は修行中の身で、この薄暗い場所で撮るのはなかなかハードルが高い。
一度休憩にして、近くの喫茶店に入りナポリタンを待っている間、ルイに愚痴を漏らす。
ルイは目の前で砂糖も何も入れていないコーヒーを飲みながら俺の話に耳を傾けている。右目にかかった赤毛の奥の灰色の目が俺を観ていて、左手でテーブルに置いてあった占いのおもちゃを弄っていた。
日本で百円で簡単に占える物だ。自分の星座の絵に合わせてハンドルを回すと、おみくじが出てくる。
硬貨を入れたルイは、出たおみくじの結果を見て「今日はまずまずか」と結果を呟く。
「これでもっとやり易くなると思ったんだけどな」
これでって、何が?
「学校に行って、サイファ達に紹介したでしょ?あぁ見えて、みんなは顔が広いんだ。学校が始まってヤスが一人になっても、大丈夫なようにしたかったんだけど」
せっかく撮った写真がほとんどダメってなるのは、お手上げかな。とルイが言う。
平気だ、また別の手を考えるから。ありがとうな。しかしサイファ達はそんなに顔が効くのか?
「僕より活発的だから、あちこちに知り合いがいる。もちろんスクールカーストとも。ウズメ君とサイファは顔見知りだしね」
ここは子供の方がコネクションには強い。
ユーハンからもそう聞いた。やっぱりスクールカーストとか言う組織と町内会が幅を利かせているからなのか。
「次は何処に行こう?思いきって、銀流街まで行ってみる?」
あ?あそこは昨日騒ぎが起こってたんじゃないか?
「今日はもう平気だよ。ここで起こる事件は、北南よりだいぶマシなのばかりだからね」
そんなに表は治安が悪いのか?
「もっと酷いよ。今は政府と揉めてるし、だいぶピリピリしてるから行かない方がいい。向こうとここはまた別の世界」
昼間はまだマシだけどねと、運ばれてきたナポリタンに一緒に手をつけながらフォークを片手にそう言った。
昼間…か。昼間はこうしてルイと一緒に出歩いているわけだが、夕方から少しはみ出した夜の帰り道はまだ光明街と自宅のルートしか知らない。来たばかりだ、まだ目新しいことは起きていないが、光明街のあの辺の空気が、ユーハンと来た昼間とは全く違ってた。
煙草じゃない変な臭いと、淫らな格好をした娼婦。酔っぱらいと明らかに正気じゃ無さそうな奴が、ウジャウジャとクーロンの何処からか這い出てきたみたいに、あの劇場の周りもそいつらで染まった。
あまりマスクなんかしたこともなかったが、今度行くときはすべきだと思ったのはあれが始めてだ。
…そういや………どうすっかな、アレ。
「ヤス?もうナポリタン来てるけど食べないの?」
フォークも持たずにボーッとしてる俺を見かねてルイがまた声をかけてきた。
此処で昨日の帰りの事を聞いてみようとしたが、なんとなく言ってはいけない気がして、別に。とナポリタンに手をつけた。
「あの…ヤス」
呟いた一言に、再び顔をあげてルイの顔を見た。
最初のコメントを投稿しよう!