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廊下を照らすオレンジのライトに照らされ、窓も通気孔もない錆び付いた臭いのするコンクリートの道。長い土管の中を進んでいるよう。エレベーターに乗ったときと全く同じ光景だ。
ここがクーロンの何処で、どの階層なのかも分からない。細く華奢な少女の背中が唯一の道標。首にかけていた重みのある一眼レフ。今がこの世だと思える証。
…だが、かなり地下に位置しているからなのか、空気は上に居たときよりも澄んで、滑かで変な肌ざわりの風がある。
歩いている時、その場を通りすぎていく風が体にまとわりついて過ぎていくよう。足元に絡まり、ゆったりと引きずる。_まるで、水圧のない水中を歩いているかのように。
ヨミ。
いくらか歩いた後、崩れた電子版が転がっている前でヨミを呼ぶと、ヨミは微かに首を動かして反応する。
「心配しなくても、生きて帰れるから。頼み事の後にね」
俺が聞きたいことを聞く前に答え、くるっと通路を右に曲がっていく。仕草に落ち着きがないというか、フラフラとした無駄な動きに振り回されているような気がしてくる。
「頼み事って言ってもかなり簡単なこと。写真を撮ってもらうだけ」
写真って何の写真だよ。
「まーまー着いたら説明するし。ちょっと人待たせてるから急がないと」
丁寧に説明を入れてくるルイとは違って、こいつの目的が全く何も分からないし見えてもこない。
まるで煙にまかれているみたいだ。
知り合ってまだ二日も経っていないから当然と言えば当然だが。…いくらガキとはいえ、好奇心だけで着いてきたのは間違いだったのか。
だが、見た感じはルイとそう変わらない年頃だ。学校に行っているならルイやダミアンとも見知ってるのかもしれない。
つーか、夜中に一人であんなとこで足出してていーのか…?
__「あっ!セレネっ!!ヨミ来たぞ!」
「あ?おいっ!!遅かったじゃねぇか!!何ちんたら歩いて来てんだよ!!」
荒廃とした通路を抜け、露店町らしき店のシャッターが全て閉じている空間に出たとき、チカチカと電球が今にも切れそうな電灯の下に、二人の人間の姿が見えてきた。
ヨミの事を確認すると、不機嫌そうに腰に手を当てる女…………が。
「ごめんごめんご。ちょっと向こうのエレベーター調子悪くてさぁ」
「後十秒したら帰るとこだったわ」
「セレネ、おいら達来て三分もしてなくない?」
「うっせ黙ってろ。私の体内時計じゃもう三十分は経ってんだよ」
…………………………………
俺は、夢でも見てるのか。それともただ単に、そういう格好をした変な奴に会っただけにすぎないのか。
「…あ?おい、その後ろのオールバックリーゼンは誰だ?男か?」
「やだなー違うよ。うちこんな厳めしいようで地味面のおっさん好みじゃないし」
「なーなーなーっ!あんちゃん、名前は?」
……………………
やっぱり見間違いじゃねぇ。
ヨミと話してるこの男女。見れば見るほど、かなり頭のおかしい格好だ。
「…あーら固まってる。いきなり君ら見たらそうなるか」
「は?私ら見たらなんだってんだよ?」
「おいら、なんかおかしいことした?」
いや、なんでって…………何で男の方は毛むくじゃらで耳が動物の耳…? 本来あるって場所にはモサモサもみ上げが生えてて、犬にも似た垂れ下がった耳は頭の………本物か?それともあれか?ちょっと本格的に仮装してるってだけか??にしても、瞳の形が…。
つか………
女の方はなんで、ほぼほぼ下着姿 なんだよっ!!!!!!!!!!!?
水着じゃねぇだろこれ…この透け感明らかに下着だろ!!!!なんだこいつ、こんな格好でスラム街を歩いてんのかっ!?
しかもなんでこの格好スルーなんだよ?何で服着てないの?くらいないのか!!誰か言わないのか!?
「なぁ、こいつなんか私の事ガンつけて来てるんだけど?そんな気がするだけ?だけだよなぁ?」
ガンはつけてねーよ、頭がやばそうな奴を見るような目で見てんだよ。って返したくもなったが、口すらも固まって動かない。そんな俺にチラッと視線を動かしたヨミが、なに食わぬ顔で下着女に言った。
「セレネ、それじゃないの?それ」
「あ?何、それって」
そうだ、それだ。言ってやれ、その格好おかしいってはっきり言ってやれ。
「ほら…それだよ。普通髪一つか二つ結びじゃん?わざわざ四つに結んでさーおさげにしてるからじゃん?二つでよくね?って思わない?」
「なんだ、髪形か」
ちげーよっっっ!!!!!!!!そこじゃねーよ!!!!確かに結ぶなら二つに分けりゃじゅーぶんだろって思うけどそこじゃねーよ!!もっとあるだろ!!もっと大っぴらに突っ込みを入れるところあるだろーがっっっ!!!!
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