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「こう見えて毛の量半端ねぇ上に二つに分けると重くてしょうがねぇんだよ。だから四つに分けてると自然と重量がいい感じのバランスになるからやってんの」
「へーそういう意図があったんだその髪形。でも重いなら切ったらよくない?」
だからそうじゃねぇっ!!知るかくだらねぇ!!
「うおっ、喋ったぞこのあんちゃん」
「そりゃ喋るだろ」
喋ったぞじゃねぇ…!!なんなんだお前ら!!一人は犬耳が生えた毛むくじゃら!!こっちは露出狂!!こっちがビックリだ!!
「…ヨミ。毛むくじゃらって、おいらの事か?」
「でしょ」
「…!!誰が露出狂だ!!!!これが私の普段着なんだよ!!変態呼ばわりすんじゃねぇ!!」
「いやその格好は異常の部類に入ると思うけどなー」
入るのかよ!!だったら突っ込めよ!!何で普通に自然と受け入れて行ったんだよ!!
「いや、この子いつもこの格好なの。てか反応するの一歩遅くなかった?毛むくじゃらの方だと思ってた?」
「うるせっ!!どいつもこいつも私の格好にぐちゃぐちゃ言いやがって!!大事な所はちゃんと隠してんだろっ!!」
「この間全裸で暴れてたって聞いたけど」
「しかたねぇだろ!!人が寝てるときに攻めて来やがって、着る暇なかったんだっつーの!!」
「マジだった。え?てか全裸で寝てるの?」
俺の言い放った言葉に、ヨミが二人の反応を見てケラケラ声を上げながら面白がって笑っている。
俺は全然笑えない。むしろ目のやり場に困る。いつもそんなエロ下着で歩き回ってんのかこの女…!!水着って言い訳も通らないくらい、デザインも生地もマジなんだが…。大事な所が見えないのがまだ幸いというくらいには。
「何笑ってんだよキ×ガイ女!!」
キ×ガイなのはお前だ。
「ごめんごめん」
禁止用語入りの罵倒を言い放った露出狂女に対し、ヨミは軽く受け流した後で俺の方に振り向き、紹介すると言ってまだにやついた顔で人さし指を向けた。
「この人ヤスって言うの。今度からヤスにやってもらうから」
「ヤス?このあんちゃん何やってるんだ?」
おい、やめろ。
毛深い男が鼻を動かして俺の首に顔を近づけて来たのを咄嗟に避けた。
なんだこいつ、格好だけじゃなくて中身的にも犬になりきってるのか?クーロンの中でも変な奴は大勢見掛けたが、こいつはラオの次に、変だと思える。
待てよ……よくよく見れば、尻尾も付いてないか………?
「その子は、ローグレン。『こっち』の住民で、人間に動物の要素を足した種族の人間だよ」
人間に動物の要素…?何?ちょっと言ってる意味が分からないんだが。
「じゃあ簡単に言うと、その毛むくじゃらの耳と尻尾、瞳も全部本物。これなら分かる?」
…………………
意味わかんねぇ……………。
俺、クーロン中の頭のおかしい奴らばっかり集めたエリアに連れてこられたってことなのか?そうなのか?
「また固まってる」
「いつもの奴はどうした?」
「向こうの事件に巻き込まれちゃってね。もう“グェイ“を撮影出来る人がいないから、ヤスを連れてきたの」
「何?じゃあ完全素人じゃねぇか」
ヨミと露出狂の会話が聞こえてくる間、視界には毛むくじゃらの男の変わった黒目の形が映っている。確かに獣の瞳と言えば、そうだ。人間の目じゃあり得ねぇ形。
ウロウロと右左に移動して、俺の顔を観察している。肌は俺や知り合いの毛深い人間の誰よりも体毛が生えて、がっしりとした体つきをしている。
「んなぁ?あんちゃん、もしかしてビースト見たことないのか?」
黙っている俺に向かって、まだ若造の顔をしたそいつが俺に聞いてきた。
ビーストがまんま動物って意味なら見たことはあるが、別の意味なら初めてだ。
「そっか~。じゃあなんで固まってんの?怖いのか?」
…怖いっていうよりは、驚きの方が勝る。
「んなら良かった!どっちかっつーと、怖がって逃げてく奴が大半なんだ。あんちゃん達みたいなベーシックってさ」
ニカッと鋭く生えた犬歯を見せて笑ったローグレンという毛むくじゃらの男。口を開いて見ればその辺の若者となんら変わらず、むしろ接しやすそうな、感じのいい無邪気な喋り口だ。
見た目に関して言えば、確かに初めて見ると人間に牙と毛と鋭い爪に獣の耳をこさえてる体格の大きい生物という形でビビられそうな気もする。
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