4 巣食う鬼

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「あれってさ、結局誰の仕業?さっき通ったらさ、町内会がなーんか普段以上に警戒してんだよねー。外の奴等とかモグを相手にしてる時以上だよ。象撃ち用の銃持ってる人いて笑った」 「無駄なこった。あれが象レベルの銃でやられるか」 …象撃ち用の銃…?それって象の骨もぶち抜くくらい強力なやつだよな?ほぼ対戦車用の威力で… 「あーら。人体を粉に変える物を持ってるから、なんだと思いきや。対セレネ用じゃないわけね。…と、すると探し物は…」 ヨミが何かを悟ったようにセレネの方を見る。それを見て「分かっただろ」とお互いに面倒臭いと言わんばかりに視線が交差している。 「ちょっと、なーんでクーロンにいんの?そりゃあの人らみんな、死に迫ってるような目で警戒してるわけだ」 「知るか。一緒に連れ戻してくれなんてローグから連絡が来たから仕方なく来たわけで」 「ごめんよセレネ。まさかあんなことになるとは思わなくて…」 ブツブツと三人が音量を小さくして話しているのが聞こえる。何かが始まる前から嫌な予感がしてくるのは気のせいか? ___『今日の運勢は、最悪だって』 ……いんや、まさかな。喫茶店の玩具なんかで俺の運勢が左右されて堪るか。 準備が整い、カメラを持ち直した俺を見て、シュンハイと呼ばれるこの階の住人らしきローグレンとセレネ、ヨミが剥き出しの汚いコンクリートに囲まれた通路の中を動き出す。 セレネの腰にぶら下がっている鞘に納まった二本の剣には自然と目が行く。そして露出した尻にも。 「あいっかわらずきったねぇ所だなぁここ。どうやって暮らしてんだよ」 「普通に暮らしてるよ。ま、お嬢様には?分かんないかもだけど?この快適性は」 「尿と糞と下水の臭いしかしないこの何処が快適なんだよ!!タルタロスの方がまだ住み処らしいわっ!!」 「えー?おいらは結構好きだけどなぁ。狭いのはやだけど」 ローグレンはセレネ程服がないわけじゃないが、普通とは違う身なりで野生感があるというか、野生。 誰か、これを仮装だと言うならば、そう言って貰いたい。俺は何も納得はしていない。ビースト?冗談は映画だけにしろ。 「おい。ヤスだっけお前。何でこんなとこ住んでんの?」 仕事だ。別に好きで来たわけでも、ずっと住むわけじゃない。 歩きながら話しかけてきたセレネに答えると、長い両手を頭の後ろに回しながら俺の方を向いてくる。 「なら、今日は結構ハードな仕事になるな」 ………ハードってどうハードなんだよ。俺何も聞いてないんだけど本当に。 「いいか?仕事を始める前に言っとく。お前はちゃっちゃと仕事をすればいい。後の事はこっちがやる」 仕事ってなんの仕事だ?それすらも聞いてない。 「このごみ溜めの中に取り込まれたもんを見つける。それがお前の仕事……っておい!!なんで私が説明してんだよ!!マジで全くの未経験者か!?研修生とかいなかったのかよせめて!!!」 文句を言いたいのはこっちだが、俺が本当に何も知らないまま着いてきていることに腹を立てたセレネが歩きながらヨミに言うが、ヨミはのらりくらりとマイペースに足を動かしながら平然と答える。 「だって私もなーんも聞いてなかったし」 は?嘘つけ!!お前が頼んで来たんだろーが!! 「いや真面目に。内容は今初めて知った。探し物くらいのレベルなら、ヤスにはちょーどいっかと思ったけど、ちょっとレベル高かったなぁ~」 ゴゥンゴゥンとパイプと配管の中の空気圧が流れる音が大きくなり、エレベーターのあった通路から有刺鉄線の張られた仕切りを跨いで道を戻り始めていたところで、ヨミはある場所で足を止めた。 歩いていた二人も足を止め、ローグレンの長く垂れた耳がピクピクッと動く。 壁に印字されて掠れた中国語の漢字、誰かがスプレーで書いた落書き、バコバコに曲がったシャッターが降りて閉店状態になっている店の狭苦しい通路に来た時、ふとしたデジャ・ビュを感じた。 ここに来る前、同じような通路を通ったような気がする。 違法建築でむちゃくちゃになったスラム街、同じような所がどっかにあっても不思議でもないような気はするが、似ている。 シャッターの向こうの店の中身は真っ暗な中に粗大ゴミが詰め込まれて異臭を放っている。 印字された大きな漢字の文字が、サビの中に微かに残っているだけだが、ここに来る前のあのシャッターが下ろされていた店のと同じ。 …まぁ…一瞬チラッと見ただけではあるが、同じだと思う。通路の形も道順も、上と違ってかなり汚れて古いが、同じように作られただけとは思えない。というか、でたらめに作っているのにここまで同じなのも、なんか変だ。 「ヤスの仕事はね。このクーロンの中に巣食う『(グェイ)』撮ること。ただ、それだけだったの」
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