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_…あそこだ。
ローグレンが丁度、廃棄物が山のように積み重なった壁に注目しているが、そのすぐ斜め上に、小さな祠と中に地蔵と灰が溢れた線香立てがあった。
さっきの郵便受けと同じようにブレブレに形が動いている。こんなゴミ山の中にわざわざ建てられたのか、捨てられたのか。
電子レンジや家電に紛れているのに異様さはあるが、それも一種の神秘性を感じるというところ、か。
「この辺から臭うんだよなー。ヤス、どうだ?」
そこの祠がさっきと同じように見える。
「ほこら?」
「そこの箱みたいなやつだよ、多分それは“要外二級“だ」
なんだよその要外何級って?
ヨミが祠を指差して二人に教えている隙に聞いた。
「実害がないグェイの事。要外六級から要外五級は全く動かないから石と一緒。
三級から一級はイタズラすることもあるからちょっと注意だけど。実害があるのは要観五級から始まって一番上が八。あんまいないけどね八まで行くのは」
居たとすれば?
「死神をカメラで撮るようなもの。そう言えば分かる?」
「おいヤス。グズグズしてねぇでさっさと撮れ。時間がない」
…要観八級とやらに、いや、要観と名のつくグェイに会わないことを祈る。
俺はまだ撮らないのかと催促するセレネの言葉に、首から下げた一眼レフを構え、接眼窓から覗き見る。
今度はどんなものが見えるかと思えば、ゴミ山の壁が写っているはずの光景は、ゴミ山のあった場所に大きく開かれた崩れかけた、鳥居のある道が見えた。
道の向こうは明かりの電飾もなく、窓とか外の光もないために暗く真っ暗な一方通行の道が続いている。
さっきとは違い、老人の姿もラジオの音もなかったが、一緒に写った小さな祠のあった場所に、一つだけ動きが見られる姿があった。
炭のようにチリチリとした鱗粉を纏う黒くて小さなトカゲが、祠のあった場所……道の端に立っている頭のかけた地蔵の上を動き回る。
さっきのは黒いボヤボヤとした影だったが、同じだ。普通のトカゲってわけじゃないらしい。そいつは俺を見ている。紫紺の目玉をちらつかせ、俺を見ている。
まるで、急に目の前に来てカメラを向けている俺に不快感を表しているのか、睨まれているような気もする。
だが、ヨミの言う要外というやつだからなのか、なにもしてくる気配がない。代わりに下の地蔵の顔が不気味に歪んだ気がした。
トカゲのくせして、気味が悪いトカゲだな…。いや、普通のトカゲでもなさそうだが。さっさと済まそう。
早々にシャッターを切りフラッシュが一緒に光った瞬間、今度は目の前からブワッと一気に放出されたような変な風が吹く。接眼窓に見える景色、地蔵の頭の上に張り付いていたトカゲは、フラッシュの光がかき消した。
___!?
薄手で来てるせいもあるが、夏にしては骨にまで響く冷たい風が急に俺を襲い、反射的にカメラを持っていた手が離れそうになった。
背筋…いや筋というよりは本当に骨からだ。直に皮膚を越えて、骨に直接見も凍るような寒さの風を当てられた気がする。
「おー!スゲースゲー!!セレネ!!道が!!ゴミが道になったぞ!!」
「うるせーな!!見りゃ分かるっつーの!!」
………
なんだ…今の風…、手がビリビリする。
目の前の行き止まりだった場所は、接眼窓から覗き見た通りの道が現実になっていた。
俺がカメラで撮った瞬間、どのようにして反映されるのか知らないが…
俺よりも薄着のこいつらは気付いてないのか?北極とか極寒地点に行きでもしない限り経験することのない、本当に身が凍るほどの風を。
「やるじゃん。ヤス」
ヨミ、どうなってる?
「初めてだから仕方ないね。あいつらを撮影する時、こうやって写真の中に封するんだけどさ。あいつらは生命体とはちがくて、私らに有害のある粒子で出来てるから」
隣で見ていたヨミは、再び俺の撮影したのを拾ったのか、真っ黒になった写真を見せてきた。
「こっちじゃ魔素って呼ぶらしい。撮影した時、粒子が分散して撮影師に降りかかるみたい。それが、撮影師が正気を失いやすい理由」
そんなもんが俺にかかった?お前は?
「私らにも多少は掛かってるよ。実際に撮影している撮影師が体感しやすいだけで、私らにはあまり実感がないだけ。…ここはちょっと普通のところより多いみたい。あまり長居は出来ないよ」
早いところ済ませよう。
頻繁に撮影にかかり過ぎなければ狂う心配はない。そう俺に言ったヨミとセレネ達は道を開くとすぐに躊躇なく現れた鳥居の下を通り、明らかに人なんかいないであろう暗い道を歩き始めた。
こいつら、一体何をさがしてんだ?本当に、戻れるんだろうな…?
疑問だけを持ちながら、その場で行きたくないとも言えず、俺は皆の後ろを着いていくことに。それしか、選択肢はない。
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