4 巣食う鬼

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「…ひでぇ臭いだ」 同感だ。 暗がりの道を懐中電灯なしで進んでいると、ヘドロかなんかの下水の臭いが急に鼻を刺激してくる。 周りはコンクリートの壁に、中国語で書かれた漢字ばっかの貼り紙くらいしか見えない。このどっかでなんかの死骸でも転がってんのか?そう思うくらいには、臭い。 「うっえっ…これじゃ、分かんないよ。ムリィ…」 クンクン鼻を利かせてた犬人間が、この臭いにようやく鼻を摘まんだ。隣のヨミもこの臭いには慣れてないのかシャツを持ってきて鼻を覆っている始末だ。 「一本道だ。このまま進んでりゃ、とりあえず辿れるだろ」 「なんだろうねこの臭い。下水菅が爆発して中身飛び散ったのかな」 「勘弁しろよぉお前ら、物爆破させるのが好きで欠陥残してる訳じゃねーだろーな?」 うんざりしたようにセレネが言う。その物言いってことは、毎回なんか爆発してんのかここは。…でもここ来てから、二回くらいなんか破裂したなんて話聞いてるな、三日も経ってないってのに。 「私が建ててるわけじゃないし、言われても困るんだけど」 「いやいや、毎日なんかが爆発してんのに、文句の一つも言わねぇのかお前ら」 毎日なのか。確か中国製品って…不良品多すぎて一回輸入中止にならなかったか? 「まぁお前らって?爆竹鳴らして色々祝ったりする習慣あるって聞いたけど。あれか?もしかしてそういう一環か?セルフでなんかがいっつも不意に爆発起こすのは!!」 「んなわけないじゃん」 「んなわけないよなぁ!?じゃあなんで爆発する心配のないぬいぐるみや招き猫まで爆発する!?」 マジかよ。そんなものまで爆発してんのか。 「急にどうしたのさ?確かにたまに爆発するものもあるけど爆弾とかじゃないよ」 するのかよ。つか爆弾じゃないとかそういう問題じゃないだろ。 「ローグに聞いたんだよ!そもそもの原因が、こっちで買ってきたもんが爆発したからだ!!怪我人は出すし、爆弾売り付けられたって知って、ここに乗り込んだんだろうよ!!」 「あーなるほど」 「なるほどじゃねーよ!!びっくりしたわ!!冗談かと思えば、まさかぬいぐるみが爆発するとか思わねーわ!!そんなもん持たされて縄張りで爆発すれば、怒って乗り込むのも分かるわ!!」 ……… なんだか分からねぇが、とりあえずセレネ達が探しているものが、動くものだと言うことが分かったな。 昨日銀流街で騒ぎを起こした奴のことを言っているんだろう。 「そんなの言われても困るし。私のせい、違うネ」 なんで急に中国人らしい片言になった? 「そうかそうかそういう事か。てめーらクーロン人は、時限爆弾仕掛けたぬいぐるみを売ってきったねぇ城の建設に勤しんでるってわけか、その態度は」 「だから、本当に私のせいじゃないし。この辺の製品に信用性ないのはクーロン人でも知ってるよ」 「まぁまぁセレネ!!ヨミに八つ当りすんなよっ。おいらが知らなくて、買ってったのが悪いんだ」 ヨミへのセレネの突っかかりに、見かねて間に入ったローグレンに、仏頂面にますます磨きがかかった顔でローグレンの胸の辺りをドンッと強く小突く。 「次からこんな詐欺集団の物資なんか買うんじゃねぇ」 「ご、ごめんな…」 「おいお前!!ポッーと見てねぇでグェイがいねぇかちゃんと見てろ!!!」 あ?ちゃんと見てんだろうがよ。イラついてるからって突っかかってくんじゃねぇ。 俺にまで噛みついてきたセレネはフンッと踵を返し、俺らより先に進んでいく。あの後ろ姿に、ヨミは「すぐ機嫌悪くなんね」と小突かれて後ろによろけたローグレンの背中をポンポンと叩いた。 「ごめんなヨミ。セレネ、別にヨミの事怒ってるわけじゃねーんだ。ただ…」 「分かってるよ。まーここの製品に問題があったのは事実だし。あいつの領域で怪我人が出たのなら、そりゃ怒るよ」 分かってるって。セレネの代わりに謝ってきたローグレンにそう言って肩を叩くヨミ。今度は俺の方にローグレンの顔が向いた。 「ヤスもごめんな。セレネ、口は悪いしすぐ苛つくけど、本当はスゲー優しいんだ。今日も、おいら達の事心配して飛んできてくれたし…」 …いいよ。気にすんな。 今日会ったばかりで俺は全く内面を知らないが、セレネが言っている内容を聞く限り、ただむしゃくしゃしてるだけって訳でもなさそうなのは分かっている。 俺も同じく、毛だらけのがっしりした肩を軽く叩いた。
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