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先に行ってしまったセレネの後をついていく俺達は、鼻の利かなくなったローグレンから『外』の話をチラッと聞いた。
俺達がいた世界ではないということだけは聞かされているが、同じクーロン内の内観で、外の様子が全く見えない状態にあるためか、実感はない。
「そっちは、中国の…香港?って所に、クーロンがあるのか?」
そうだ。俺は中国人じゃないから、国の中の事は知らねぇけど。
「へー、ヤスは他の国の出身って事なんだな!生まれは?」
日本だよ。…って言っても、分かるわけねぇか。
「日本…うん。わかんない。おいらは、ラスト領の黄昏の森って所から来たんだ。生まれは、ホーエンハイム」
…わかんねぇな。聞いたことがない。いや、なくて当然だけどよ。
「私も分かんない。どんなとこ?」
「ホーエンハイムは…よく覚えてない。父ちゃんから聞いたのは、昔は自然がスゲー豊かでビーストも多かったし、他にはいない珍しい生き物も沢山いたって。黄昏の森は一日ミカンみたいな色してるけど、他の所と違って人の干渉もないし、食べ物も困らない。暮らしやすいぞ」
「へー。いいじゃん。なんでホーエンハイムから黄昏の森に移ったの?」
「戦争で取られちゃったから」
…戦争?そっちは、戦争してんのか?
ふいにローグレンの口から出た戦争という言葉に俺が聞き返すと、あんまり話したがらないような素振りもなくローグレンの返事はすぐに返ってきた。
「ガキの頃の話だよ。おいらの母ちゃんも父ちゃんも頑張ったけど負けちゃって。でも、すぐに取り戻した!ねーちゃ……真王様が助けてくれたから」
雑談程度に聞いていたつもりが、意外に重い話に転がり込んだ。こいつがガキの頃だろ?年を想像して考えても、そんなに昔の話でもない。
取り戻したって事は、国は戻ったんだろ?なのに、戻ってないのか?
「国の統治権はビーストに戻らなかったんだ。おいら達種族は、今はマシだけどかなり嫌われててさ。そのままずっと、森暮らし」
それは…大変だったな。
「別に不自由してないよ!他のとこ行くより安全だし、街と違って好きなだけ走ったりしてもいいしね!」
にかっと犬歯を見せて笑い顔を見せた。戦争で国も取られてるのに、こんなポジティブさは何処から湧いてくんのか。意外に苦労してきたのか。
セレネはお前らと違って、俺らに近いみたいだが、どういう関係だ?
「セレネとおいらは、兄妹みたいなもんだ!!…んでも、おいらより年下なのに、いつのまにか向こうがボスになってる」
立場逆転してんのか。確かに、見てりゃかなり気が強そうだもんな。俺みたいな大の男にまであんな口利きやがるし。
「そーそー!!昔はあんなんじゃ、なかったんだぜ?あのな…」
「セレネの事は、あまり聞くもんじゃないよヤス」
俺とローグレンが話をしていると、聞いていたヨミが途中で割り込むように口を挟んで、離れた前方をブラブラと鞘を揺らして歩くセレネの背中を見て言った。
「あいつに関しては、クーロンの奴も不可視の人間も詮索はタブーなの」
「え?そーなのか?」
「そうだよ。あんたみたいに付き合いのあるビーストや、ヤスみたいなのは知らないけど」
あの小娘の事?なんで?
「あいつ、あぁ見えて結構良い所のお嬢なの。けど、ちょっと特殊なもんで。皆腫れ物のように扱ってんのさ」
お嬢?あんな裸同然の格好した教養ない女が?
「散々な言いぐさだね。でもそんな感じで接してやれば、案外本人は嬉しいもんだからどんどんやって。…けど、詮索はなし。どんな組織の大ボスでもやらないよ」
……そんなに、命がヤバイって話なのか?あの下着女の事を聞くというのは。
見た目は本当にあれで、口の聞き方も悪いガサツさだが、良い所のお嬢だと?
見た目じゃ人は分からないもんだ。
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